2層ERPとは?2層ERPが生まれた背景やその特徴について分かりやすく解説
経営管理は経営資源であるヒト、モノ、カネの配分を把握し、意図的にそれらの経営資源の最適化を行うことで企業活動の促進や成長を推進するための活動です。現在では経営の多角化、グローバル化が進む中、複雑になる業務プロセスを統合し、全体最適を実現するための基幹業務システム、ERPが経営管理をより現実的に、リアルタイムに行えるための基盤として欠かせないものになっています。このERPの活用手法として、「2層ERP」(Two-tier ERP)が注目されています。
今回は、この手法が生まれた背景や特徴について解説します。
グローバル化で求められる全体最適
企業活動の多角化、グローバル化に伴い、取り扱うデータの増加や管理プロセスの煩雑さが増し、経営管理の高度化・複雑化が進んでいます。
このような環境で経営管理を行うために、国内外のグループ企業を含む全拠点に同一のERPシステムを導入し、データのフォーマットの統一、業務やデータの連係を行うことで業務処理を効率化し、経営状況をリアルタイムで把握できるようにしたいというニーズが高まっています。このように全拠点を単一の企業組織としてERPを構築して利用する形態を、グローバル・シングル・インスタンス(Global Single Instance)と呼びます。本社などに構築したシステムをネットワーク経由で各拠点が利用するような仕組みのことです。
グローバル・シングル・インスタンスのメリット・デメリット
グローバル・シングル・インスタンスはある意味で理想の形態です。SAP S/4HANAに代表される、大企業向け・多国籍企業向けERPを企業グループ全体で導入することが一般的です。その場合、全ての拠点が同一のシステムを利用しているため、売上高や在庫、受注といった経営判断に必要な情報をリアルタイムに集計でき、迅速な経営上の意思決定を可能にします。また、全世界で、統一された業務プロセスが導入されていることから、拠点の新設や統廃合、拠点をまたいだ社員の異動などが柔軟に行えることもメリットといえます。アプリケーションのバージョンアップや制度変更への対応といった保守作業を一元化することができるため、グループ全体のITコストの削減や保守性の向上にもつながります。
しかし、全体最適を実現するためのグローバル・シングル・インスタンスが、一部の支社・拠点の業務効率を下げてしまう可能性もあります。本社とは異なる事業を行っていたり、海外の地元企業との合弁会社であったり、あるいは商習慣が異なる国の拠点においては、業務プロセスやデータの構成が本社と異なることが考えられます。このような拠点に同一のシステムを導入すると、現場の業務内容とERPシステムの機能とのギャップを、マンパワーで埋める必要が生じ、逆に業務負担が増してしまう可能性もあります。また、大企業であっても海外の拠点は小規模の場合もあり、そうした拠点では、往々にして、システム維持管理に必要な人材も不足しています。
また、市況の変化や経営戦略の変更によって拠点を短期間で統廃合することになったり、あるいは、国の政治情勢などの変化のために事業から撤退せざるを得なくなる、ということも考えられます。長期的な将来予測が困難な中で、本社と同様の大規模なERPシステムを、多額の費用をかけて導入するのは、リスクが高い経営判断なのです。
2層ERPのメリット
こうしたデメリットを避け、グループ全体の最適化を図る手段として生まれた考え方が「2層ERP(Two-tier ERP)モデル」です。2層ERPは、2000年代後半から米ガートナー社などが提唱してきた手法で、本社ではSAPソリューションなどの大規模製品をコアERPとして運用し、海外拠点やグループ企業では各拠点単位で異なるニーズに対応できる柔軟なERPを選択し、コアERPとの連携を図るというものです。
企業グループ全体で同一のシステムを採用するグローバル・シングル・インスタンスと異なり、拠点ごとに、そこで展開される事業やその国・地域の商習慣に適合したERPを利用できるため、業務効率の低下を防ぐことができます。コアERPとのデータ連携が可能である、という条件が満たされる必要はありますが、各拠点のニーズに合った仕様及び価格帯のシステムを自由に選べるという点で、経営リスクの軽減にもつながります。また、本社側では、コアERPと2層目のERP間のデータ連携により、グローバル・シングル・インスタンス採用時と変わらず、グループ全体の経営データを早期に取得することができます。
例えば、本社および国内外の主要グループ会社に2010年から「SAP ERP」を導入している日本の大手IT企業は、2016年から海外拠点の一部に「SAP Business ByDesign」の導入を進めています。本社・主要拠点に導入済のコアERP(1層目)を保持しつつ、その他の拠点には柔軟性が高く、短期間かつ低コストで導入可能なERP(2層目)を採用することで、グローバルでの全体最適を図っています。
また、別のIT企業では、本社の経営基盤システムとしてシングルテナント型の「SAP S/4HANA Cloud」を採用し、海外グループ企業5拠点では、マルチテナント型を採用しています。本社用のシステムには、柔軟性と自由度の高いシングルテナント型を選定する一方、海外拠点にマルチテナント型を採用することで、M&Aで傘下に収めた海外グループ5拠点に、短期間で基幹システムを導入することに成功しました。
クラウドで加速する2層ERP
クラウドERPは、サーバーを構築するためのハードウェア費用や維持管理のためのIT技術者の新規雇用が不要であり、従来のオンプレミス型ERPに比べ低コスト・短納期での導入が可能です。特に、マルチテナント型の「SAP S/4HANA Cloud」のようなクラウドサービスを利用することで、上述の事例のように、短期間で基幹システムを構築することができます。
月額利用料を支払うことで迅速な導入が可能なクラウドサービスは、大規模ERPを導入するにはリスクが高いと思われる拠点で、二層目のERPとして採用するのに適しているといえます。クラウドサービスの信頼性やデータ処理能力が向上し、「SAP S/4HANA Cloud」や「SAP Business ByDesign」のようなクラウド型ERPが主流となる中、効率的な経営管理を実現するための手段としての2層ERPの利用は有効なアプローチであり。今後も増えていくでしょう。
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