室内で行われた講習会の後は、練習場でウォーミングアップを行い、実際にコースに出てラウンドをしながらのレクチャーが実施されました。
ゴルフはメンタルのスポーツと言われるほど精神的な要素がスコアに影響を及ぼします。たった1つのミスでリズムが崩れたり、高い技術があるのにも関わらずプレッシャーに押し負けたりすることが多々あります。試合という緊張する舞台になるほど、それは顕著に現れますが、その中で力を発揮するには、自分をよく理解していることが大事だと清水氏は話します。自分を知り、追い込まれた状況下でいかに冷静な判断ができるかが、強い選手になるための条件だと生徒達に伝えていました。
ラウンド中も講習を行う清水氏
この日、プレーヤーとして午後のラウンドに参加した男子キャプテンのYさんは、試合でカットライン上に自分がいる場合のプレーの仕方について清水氏に質問を投げかけました。
「学生の場合は1日競技が多いかもしれません。予選カットがある試合だと、そこは確かに意識してしまう部分だと思います。プロゴルファーにとっても予選を通過しない限り、賞金はゼロになるわけですから常に意識する部分です。
ただ、特に学生の試合などではリーダーボードがある訳でもなく、周りの選手のスコアを確認する術がありません。要は、実際は明確な予選カットラインが見えない中でプレーをしなければならないわけです。そういう時こそ必要になるのが、自分のプレーに徹することです。仮に予選を通るか通らないかという位置でプレーをしていたとして、冷静に考えれば、その位置でプレーをしていること自体がゴルフの調子が良くはないということです。その判断ができれば、無理な攻め方をしないだろうし、スコアメイクの考え方も変わってくるはずです」
ミスをすると、心理的にどうしてもそれを取り返そうとしてしまうのが人の性です。そういう場面で成功率の低いショットを選択するというミスジャッジが起こりがちです。
清水氏は、そんな時こそ1つでも良いスコアで上がる方法を考えるべきだと言います。ミスショットをしたら、それをしっかり受け入れて次のショットと対峙すること。ミスを取り返そうとするのではなく、自分にとっての最善のショットを選択することが大事です。
この日のラウンド中も何回かそのような場面がありました。
ピンを狙うゴルフ部の生徒
パー3でティショットがグリーンの右手前に外れた場面、ピンまでは6~7mほどでした。ボールのライは良く、チップインも狙えるシチュエーションです。実際、その生徒もカップインさせる自信があったと振り返ります。
ただ、結果はアプローチをオーバーさせてボギーでした。このことについて清水氏は生徒達に、ミスを取り返すのではなく、ミスを受け入れることの重要性を指南しました。
「確かにボールのライが良くて、ラインもそれほど難しくはなかったと思いますが、そこで(カップを)狙いにいくのは間違いです。これはどれだけアプローチに自信があり、実際に高い技術を持っていたとしてもです。もちろん試合で、これを入れれば優勝など、自分が置かれた状況にもよりますが、そういった状況を除けば、その一つ前のティショットでのミスを受け入れてプレーすることです。冷静に考えれば、残されたアプローチはボールのライが良くて、ラインも難しく無いわけですから、パーを獲ることはそれほど難しくないはず。試合になると、そういう冷静な判断をして1ストロークを大事にする姿勢が重要になります」
ミスを取り返したいという心理はビジネスにも通じることですが、楽をして一発逆転などはあり得ません。それが企業にとって大きなプロジェクトになるほど業績を左右しかねない間違った判断になってしまいます。
清水氏が話すように、ゴルフはミスをするスポーツで、そのミスをいかに減らすかが求められるゲームです。いつも良いショットができるわけではなく、むしろミスをする確率の方が高い。だからこそ、できもしないスーパーショットを狙うのではなく、自分ができることを常にやり切ることが必要です。その積み重ねが良いスコアに繋がり、一つのミスを引きずることで、その日のプレーを台無しにしてしまう可能性があります。
また、違うホールではある生徒が簡単にダブルボギーを叩いてしまう場面がありました。パー5の3打目をグリーン奥のバンカーに入れ、加えてボールのライも最悪でした。グリーンに乗せるどころか、バンカーからの脱出さえも難しい状況で、最初のショットでバンカーは出せませんでした。3打目でグリーンを外してしまった時点で、頭の中には「寄せて、ワンパットでパー」とよぎったはずでしたが、清水氏曰く「ボギーでよし」と考えるべきだったとのことです。
「もちろんパーであがることはベストですが、まずは3打目のミスを受け入れること。そして、次の4打目の状況を冷静に判断することです。冷静になって、ボギーであがることを考えれば、その難しいライのショットの打ち方も変わります。パーを狙うから難しくなるものが、ボギー狙いなら、全ての見え方が変わります。いかに一つでもスコアを減らすかを冷静に判断することです」
グリーン上で講習を行う清水氏
ビジネスに置き換えると、大きな成果を上げることは最大の目標ですが、大きなリスクを背負うようなやり方では体力がもちません。プロジェクトにおける重大な意思決定に対して、いかに丁寧に仕事を進められるか、そこには冷静な状況判断が求められます。
ゴルフにおいても、1つでもスコアを縮めるには何がベストなのかを考え、バーディやイーグルを狙うばかりではなく、いかにボギーの数を減らし、かつダブルボギーをボギーにする努力も必要です。
清水氏は、試合で強い選手や勝てる選手は、難しいホールでこそきっちりパーセーブをすると言います。要は難しいホールでバーディを獲れる選手が強いわけではないということです。
簡単なホールでは、誰もがバーディを獲れる可能性があり、意外とスコアの差がつきにくいです。一方で、ボギーやダブルボギーが出やすい難度の高いホールでこそ、強い選手は慎重に攻めてきっちりパーセーブを重ねると言います。
18ホールの中には、何ホールかはそういう難しいホールが用意されています。仮にそのホールでスコアを伸ばしたい状況だったとしても、強い選手は冷静にきっちりパーを獲りにいきます。一発逆転を狙うゴルフではなく、地に足をつけたゴルフをできる選手こそ、最後に栄冠を手にするものです。地力をつける努力をしてもらいたい、そんな清水氏のメッセージを生徒達はしっかり感じ取ったに違いありません。
清水氏が多くの生徒に囲まれながら講習を行う姿が印象的だった奈良育英高等学校ゴルフ部での5回目の講習会。
清水氏曰く「積極的に質問してくる生徒と、質問できない生徒で強さに差が出るのではないかと感じています。質問できない性格の生徒にとっても、こういう機会を経て質問ができるようになるケースもあると思いますが、もともとの性格の差もあるのかなと感じています。このような機会を与えてもらって、自分にとっては教え子のような感覚で接していて、1人でも多くの生徒に上手くなってもらいたいですし、もっとゴルフが好きになってもらいたいと思っています。プロゴルファーになることは大変なことで、特に女子は非常に難しいと言われています。そんな難しい目標に向かって努力する生徒の助けに少しでもなればと思います」
日本プロキャディー協会では今後もジュニア選手の育成や、次世代のプロキャディの育成にも力を入れていきます。NTTデータ グローバルソリューションズは、そうした協会の姿勢に共感し、スポンサーシップを通じて日本プロキャディー協会の活動を応援していきます。
本当の意味で強いプレーヤーになるために必要なこと こちら