2025年の崖とは
「デジタルトランスフォーメーション(DX)とは」で紹介したDXレポートには「2025年の崖」という言葉で危機感を喚起しています。
本記事では、「2025年の崖」についてより詳細に紹介します。
2025年の崖とは
既存のITシステムの老朽化、また、事業部門ごとに細分化されたシステムが構築された結果、全社横断的なデータ活用が困難になったり、あるいは過剰なカスタマイズの結果、アップデートやより適切なシステムへの移行が難しくなっていたりする等、システムの肥大化・複雑化・ブラックボックス化がDX実現の足かせになっています。
多くの経営者が将来の成長、競争力強化のためにDXの実現が必要であることを理解しているものの、思うように推進できていないのが現状です。
こうした既存システムが残存した場合に想定される国際競争への遅れや我が国の経済の停滞リスクについて、経済産業省は、2018年9月のデジタルトランスフォーメーションレポートで、DXが進まなければ、「2025年には最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と警告し、そのことを「2025年の崖」と呼んでいます。
日本企業と海外企業の意識の格差
システムの肥大化・複雑化・ブラックボックス化はもちろん問題ですが、その前に、経営層が何をすれば良いのかという認識が日本企業と海外企業で異なる、という問題もあります。
IDC社が世界1,987社(うち国内150社)を対象として実施した意識調査では、国内企業と海外企業では、DXの目的意識に差が見られることが明らかになっています。DXを進める際の優先事項についての質問では、国内企業の回答が「データの資本化/収益化」に集中したのに対し、グローバル企業では、主に製品開発や顧客体験の向上といった分野への意識が高いことが分かりました。<また、サプライチェーンや製品・サービスを用いた顧客体験の向上も、日本企業と海外企業の回答で差がついた分野です。
全般的に、日本企業が「DXとはデータを活用したビジネスを行うこと」と捉えているのに対し、海外企業の認識はより多様化していることが分かります。2015年から2020年におけるIT産業の成長率は、世界が5.0%なのに対し日本は1.1%に留まっています。
経済産業省の「DXに向けた研究会」の座長を務めた南山大学理工学部ソフトウェア工学科教授の青山幹雄氏は、この差を生んでいるのが企業のDXへの取り組み度合いの違いであり、世界では「ビジネスや顧客体験の改善、データの活用が進行している」と指摘しています。
レガシーシステム
日本の企業には、1980~90年代に開発された情報システムをいまだに維持、運用しているところも多くあり、2025年には、21年以上稼働している『レガシー(時代遅れの)システム』が全体の6割を占めるとみられています。さらに、こうしたシステムが、企業内の各部門において部分最適を目指してカスタマイズされていく中でシステム全体が肥大化し、その中身がブラックボックスになってしまっています。そして肥大化の結果、維持管理費用も高騰します。
日本企業のIT関連費用の80%が、現行ビジネスの維持・運営に割り当てられており、戦略的なIT投資に遅れをとっているという現実があります。
短期的な観点でシステムを開発した結果、長期的に運用費や保守費が高騰してしまい、その費用負担があるためにDX の実現に必要な IT 投資に資金・人材を振り向けることが困難になっている。そうした負の連鎖に陥っている企業も少なくありません。
また、日常的に活用できている間はレガシーであることは自覚できないため、レガシー問題は顕在化しにくいという問題があります。
また、企業が問題を自覚している場合であっても、ハードやソフトの維持限界がこない限り、問題の重要性が顕在化しないため、時間と費用をかけて根本的にシステムを刷新しようとするインセンティブが生じにくい、という問題もあります。DXレポートには、システム刷新に要するコスト等の例として、7年間で800億円(運輸業)、8年間で300億円(食品業)、4-5年間で700億円(保険業)という事例が紹介されています。
こうした巨額の投資に対する経営層の支持を取り付けるのは容易なことではありません。
人材不足とノウハウの喪失
人材の枯渇も大きな問題です。
DXレポートは「ユーザー企業のあらゆる事業部門でデジタル技術を活用し、事業のデジタル化を実現できる人材」の育成を訴えていますが、日本では、ユーザー企業よりもSIerやベンダー企業にITエンジニアが多く所属しており、ユーザー企業がベンダー企業に受託開発を依頼する構造になっています。そのため、ユーザー企業側にITシステムに関するノウハウが蓄積しにくい構造ができあがってしまっています。
さらに、レガシーシステムの開発に関わった人たちの多くが、2025年には定年を迎え、一線を退いてしまうという問題があります。2025年には、バブルの最中の1987年に大卒22歳で就職した世代の社員が定年を迎えます。当時は、株式会社日立製作所、日本電気株式会社(NEC)などのメーカーがコンピューターの覇権争いにしのぎを削り、採用を拡大化していた時期でした。この時期に入社し、大規模なシステム開発を担ってきた人材が退職し、ブラック化したシステムの中身を知る人材が一気にいなくなることは、企業にとって大きなリスクといえます。
こうした課題を解決できず、日本におけるDXの実現が遅れると、2025年には最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があります。
この「2025年の崖」を乗り越えDXを実現するためには、長期的な視野にたった経営者のリーダーシップ、そして経営者・業務部門・IT部門の三位一体による経営改革が必要なのです。
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