クラウドERP導入の壁とそれを乗り越える方策第3回 SAP BTPによるDX推進
グローバルにビジネスを展開する製造業にとって、デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性は高まる一方であり、企業が競争力を発揮するためにはDXへの取り組みが不可欠です。
今回は、クラウドERP導入の壁とそれを乗り越える方策と題して、基幹系DX基盤のあるべき姿と、その実現に向けてポイントを4回に渡ってご紹介します。第3回ではさまざまなSaaSソリューションを活用し、企業に最適化されたITエコシステムを実現する仕組みについて解説します。
ぜひ、ご一読ください。

INDEX
製造業のDXに求められるITエコシステムとその必要性
本連載の第1回では、現代の製造業が求めるDXを実現する基幹系DX基盤として、クラウドERPのSAP S/4HANA Cloudが非常に有効であることをお伝えしました。Fit to Standardアプローチによって企業は迅速にDX基盤を導入し、将来にわたって持続的に企業競争力を高めていく仕組みを実現できます。第2回ではSAP S/4HANA Cloudと組み合わせ、企業の継続的な発展に寄与するDX基盤を作るSAP Business Technology Platform(SAP BTP)について説明しました。
今回(第3回)は、SAP BTPをさらに活用して周辺系システムと連携し、ERPシステムの導入効果を最大化するシステム統合についてご紹介します。
近年、市場には多くのSaaSソリューションが登場しています。従来は一元的にERPシステムへ集約されることの多かった業務システムは、ビジネス環境の変化に迅速に適応するためにSaaSソリューションなどのクラウドソリューションの導入が活発に行われています。
1つのITソリューションだけで完結するのではなく、複数のソフトウェアやアプリケーションを連携させることで、より効率的に、企業が抱える課題を解決することが期待できます。また、さまざまなITソリューションとの連携を実現することでより多くのデジタルデータを集め、新しいインサイトを見出すことも可能です。
そのため、豊富なSaaSソリューションから各企業が業務にもっとも適したソリューションを選定して取り入れることは、企業のDXを迅速に推進していくための有効な選択肢となっています。つまり、SAP S/4HANA Cloudを中核に据えながらも、すべての業務をSAPソリューションが担うのではなく、全体最適の観点からソリューションを選定し、ITソリューション同士の連携を通じてエコシステムを実現することが、DX時代に企業が目指すシステムのあるべき姿といえます。
しかし、SaaSソリューションを導入したとしてもソリューション間の連携/統合については仕組みができていない、もしくは手作業で行っているというケースも少なくありません。システムが多いほど周辺系システムを個々に連携させることが難しく、時間やコストがかかるからです。
ソリューション間の連携ができていなければビジネスプロセスの分断による業務スピード低下を招いたり、情報資産が分散/サイロ化してしまい有効活用ができなくなったりなど、エコシステムを構築するメリットを得ることが難しくなります。
そのため中核となるERPシステムに求められるのは、サードパーティを含めた周辺系システムと役割分担し、それぞれのITソリューションとシームレスに連携できることです。「周辺系システムとどうやって連携するか?」は、DX基盤の導入において避けられない課題の1つです。
SaaSなどのクラウドソリューションやオンプレミスシステムなど、分散した業務システムを統合するには、システム統合基盤であるiPaaS(Integration Platform as a Service)が有効です。iPaaSは各システム間でのデータ連携、プロセス連携を一元的に管理し、企業内にあるアプリケーション間の統合を単一のソリューションで実現します。
SAP BTPでは、SAP S/4HANA Cloudと最も親和性の高いiPaaSであるSAP Integration Suiteが提供されています。このSAP Integration Suiteを用いることが、SAP S/4HANA Cloudを中心としたエコシステムを実現する近道となります。
iPaaS基盤による企業内システム統合
SAP Integration Suiteはシステム統合のための複数の機能をもったクラウドサービスです。SAPソリューションはもちろん、非SAPソリューションとの連携についてもサポートされており、システムによって異なるさまざまなインターフェースに対応しています。
主要なサードパーティSaaSソリューションに対して事前定義済みの統合シナリオも複数用意されているため、シナリオを組み込むことで統合プロセスをすばやく実現できます。
また、企業データへの不正アクセスを防ぎ、データ連携の安全性を保つための管理機能も備えています。セキュリティポリシーの整備や監視機能などによってAPIによるインターフェースをセキュアに利用することが可能です。さらにクラウド基盤であるメリットを活かし、可用性が高いことも特長の1つです。スケーリングによって膨大なトランザクション量を処理することも可能となっています。このように、SAP Integration Suiteはエコシステムのあらゆる統合ニーズに対応したシステム統合基盤です。
SAP Integration Suiteを用いることで、個々のシステム間連携ではなく、SAP Integration Suiteをハブとして標準化、簡素化されたシステム統合が実現します。
SAP Integration Suiteの最大の特長はSAP ソリューションとの親和性です。特に、SAPソリューション間の統合においては事前定義されたシナリオと統合フローが用意されており、設定のみで統合が可能です。
また、サードパーティ製品に対しても豊富な接続アダプタが用意され、主要なSaaSソリューションとの統合がサポートされています。
iPaaSでエコシステムを最適化
iPaaSであるSAP Integration Suiteは、最適なソリューションを組み合わせて利用するためのエンタープライズシステム統合基盤として活躍します。高度なシステム統合の仕組みがあることで、企業はSAP社が提供するソリューション以外の製品も対象とした最適なエコシステムを実現できるようになります。
周辺系システムとの緊密な連携は、DX基盤に求められる必須機能です。SAP Integration Suiteの活用は、クラウドERPの導入効果を十分に発揮し、企業のITエコシステムの中核としてSAP S/4HANA Cloudの価値を最大限に高めるためのポイントです。
このように適切なSaaSソリューションを組み合わせたクラウドERP導入こそが、DX基盤のあるべき姿です。SAP S/4HANA Cloudを基幹業務システムとして中心に据えながら、領域別に最適なSaaSなどのクラウドソリューションを配置することが、製造業のDXを実現する近道となります。
そして、第2回でご紹介したとおり、SAP S/4HANA CloudやSaaSソリューションでの実現が難しい独自要件については、SAP BTPによるSide by Side開発での実現を選択できます。
DXにおいて肝要なのは、従来のようにすべてをERPシステムで作りこむのではなく、各ソリューションの長所をうまく組み合わせて、自社に適したシステム構成を検討することです。
しかし、各業務に対してどのソリューションが最適なのか、周辺系システムとERPシステムの役割分担はどうするのかを取り決めていくことは、なかなか簡単ではありません。業務のあるべき姿を見極め、実現する手段へ落とし込むにはITと業務の両方に精通している必要があるからです。
「SAPソリューションを通じて日本企業のグローバル経営を支援すること」をミッションとするNTTデータ グローバルソリューションズは、SAP S/4HANA Cloudの導入を構想策定から支援します。
SAP製品以外のシステムの導入実績、知見も豊富であり、全体最適の観点からDX推進基盤として基幹システムと周辺系システムの最適な組み合わせを提案し、ロードマップの作成を支援します。
おわりに
第1回ではDX基盤のあるべき姿として、クラウドERPであるSAP S/4HANA Cloudの導入について紹介し、導入に向けて障壁となる課題をご説明しました。そして第2回、第3回ではクラウドERP導入における課題を解決するソリューションとしてSAP BTPをご紹介しました。
基幹系DX基盤としてSAP S/4HANA Cloudを導入し、SAP BTPを組み合わせることで、企業競争力を確保し継続的な成長を可能とするシステム基盤を構築できます。また、DX基盤としてのSAP S/4HANA Cloudの価値はそれだけではありません。データに基づいて業務プロセスを連携し、最適化されたシステム基盤を、データドリブン経営のための基盤として利用できるようになります。
最終回となる第4回では、企業内のあらゆる情報をリアルタイムに統合し、企業経営へフィードバックするデータ活用の仕組みについて解説します。