ERPデータを最大限に活かす:SAP Business Data Cloudによる新時代の経営基盤

昨今のERP導入は、単なる業務効率化にとどまらず、企業の意思決定をデータで支える「データドリブン経営」へと進化しています。

その背景には、業務プロセスをERP標準機能に合わせる「Fit To Standard」、不要なアドオン開発を排除する「Clean Core」といった考え方が広まり、データの整備と活用がしやすくなりました。

本記事では、SAP社が提供するSAP DatasphereやSAP Analytics Cloudを活用し、部門を超えたデータ分析や計画立案を通じて、より迅速かつ正確な経営判断を支援する方法をご紹介します。ぜひご一読ください。

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INDEX

はじめに

近年、ERP導入の目的は単なる業務効率化にとどまらず、企業全体の意思決定を支える「データドリブン経営」の基盤づくりへと進化しています。

その背景には、「Fit To Standard」「Clean Core」といったアプローチの浸透があり、Data Analytics(データ分析)の利活用にも大きな変革をもたらしています。

また、SAP社は「SAP Business Data Cloud」に関するプレスリリース*を公開し、データ統合・管理を担うSAP Datasphereや、データ分析を支えるSAP Analytics Cloudが、同社の掲げるビジネスデータファブリックのコンポーネントとて位置付けられたことを発表しました。

企業が日々生み出す膨大な業務データをいかに整理し、価値ある情報として活用できるか。この問いに対する答えが、近年のERPの進化とその周辺技術に集約されています。

出典:SAPジャパン プレスリリース「ビジネスAIを加速させるSAP® Business Data Cloudを発表」 こちら

従来のERP導入における課題

「Fit To Standard」や「Clean Core」といった考え方が広まる以前、ERP導入では企業独自の業務要件に対応するため、多くのアドオンが施されるのが一般的でした。データ分析を行う際には、ERPの標準設計思想に基づかないアドオンテーブルや、開発者ごとの判断で作成された属人的なテーブル構造が存在しており、データの整理・変換作業に多大な工数がかかっていました。

この結果、システム全体の構造は複雑化し、モジュール間の連携やデータの整合性の確保が困難でした。また、部門ごとに仕様が異なることにより、全社的なデータ統合が困難となり、経営判断に必要な情報の可視化が妨げられる状況も多く見られました。

このような状況では、分析の再現性が低く、属人的な作業に依存せざるを得ないケースも多く、全社的な「見える化」やデータの利活用には限界がありました。

「Fit To Standard」、「Clean Core」による導入手法の改革

近年のERP導入では、業務プロセスをERP標準機能に合わせる「Fit To Standard」、不要なアドオン開発を排除する「Clean Core」というアプローチが主流となりつつあります。

「Fit To Standard」により、業務プロセスが標準化されることで、導入期間の短縮、コスト削減、保守性の向上といったメリットが得られます。

一方で「Clean Core」は、ERPのコア部分にカスタマイズを加えずに拡張や連携を行うことで、将来的なアップグレードの容易さやシステム全体の整合性維持を実現します。

これらの考え方の導入により、データ構造も自然と標準化され、Data Analyticsの実装や活用が格段にしやすくなっています。結果として、ERPが本来持っている標準テーブルとモジュール連携をそのまま活用することができ、後工程におけるデータ統合や分析処理の負荷が大幅に軽減されるようになりました。

正規化されたデータベースがもたらす「見える化」と経営インサイト

Fit To StandardとClean Coreの導入により、ERPのデータベースは整然とした構造を保つようになり、余計なデータの混在を防ぐことが可能となりました。

これにより、FI(財務会計)/CO(管理会計)/SD(販売管理)/MM(在庫購買管理)/PP(生産管理)といった各主要モジュールのデータが高品質かつ統一的な形式で管理され、分析に活用できる環境が整備されています。このようにデータが「きれいに整っている」ことにより、企業は単発的な指標ではなく、プロセスを跨いだ連続的なKPIやストーリー性のあるレポートを容易に作成できるようになります。

整ったERPのデータを最大限に活用するためには、SAP社が提供するSAP DatasphereSAP Analytics Cloud(SAC)の組み合わせが効果的です。SAP Datasphereは信頼性の高いデータ統合基盤を提供し、SACはそのデータを使った可視化・分析・シミュレーションを可能にします。

その結果、Data Analyticsに必要な情報が正規化され、データに基づく迅速かつ柔軟な意思決定、すなわちデータドリブン経営の実現に向けた土台が構築されつつあります。以下のような先進的な分析が可能になります。

モジュール間を跨いだデータの可視化

販売、購買、生産、会計を横断した一貫性あるデータを用いて、ロジスティクスと会計を跨いだレポートの作成が容易になります。

データが整備されていることで、部門ごとの断片的な指標ではなく、連携された業務の流れを反映した一貫性のあるレポートやKPIの設計が可能になります。会計情報のみによる損益の把握だけでなく、その発生源であるロジスティクスデータを用いることで、根本要因を特定する分析が行えます。

これにより、表面的な数字の改善ではなく、実態に即した施策立案が可能になります。

システム間のデータ統合と可視化

ERP内のデータに加え、CRMやサプライチェーン管理など外部システムとの連携も進み、統合ダッシュボードによる包括的な分析が実現します。

SAP Datasphereをデータレイクとして活用することで、ERPの標準データ構造を保ったまま、さまざまな社内外のデータを柔軟に取り込み・一元管理ができます。

これにより、統合的な視点での可視化・分析が可能となります。

計画立案、シミュレーションや将来予測の高度化

整備されたデータに基づき、売上・売上原価・製造原価の乖離分析を行うことができ、特にSACのPlanning機能を活用することで計画における予実比較などが可能です。

従来のExcelに依存した計画業務から脱却し、部門間で統一された計画・予算プロセス及び比較レポートの自動化を実現できます。これにより、属人的な取りまとめ作業を排除し、より高精度かつスピーディな計画業務を行えます。年度計画の策定に加え、各部門が入力した数値をリアルタイムに集約し、売上やコスト、キャッシュフローへの影響をシミュレーション機能することも可能です。

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このように、整備されたERPデータを活かして高精度かつ俊敏な分析・意思決定を行うには、その基盤となるデータ統合と活用環境の整備が不可欠です。

ここで重要な役割を果たす、SAP DatasphereとSAP Analytics Cloud(SAC)のアーキテクチャについてご紹介します。


  • SAP DatasphereによるERPデータ+周辺システムデータ活用
  • SAP Datasphereは、ERPや周辺システムを含む企業内外のデータを一元的に集積・接続するためのSAP社が提供するデータウェアハウス製品です。

    SAP製品に限らず、サードパーティ製品とも接続できる多様なコネクタを備えており、柔軟なデータ収集が可能です。さらに、データ統合や加工処理の機能を備えているため、あらゆるデータ統合プロセスを1つのプラットフォーム上で完結できます。

    特筆すべきは、SAP社が提供するデータ仮想化テクノロジーにより、リアルタイムなデータ参照が可能である点です。ユーザーはSAP Datasphereを通じて、ERPのデータにリアルタイムでアクセスでき、業務に即した迅速な意思決定が可能となります。また、SAP S/4HANAと同一ベンダー製品であることによる親和性の高さも、整合性を損なわず高度なデータ分析を行う上で大きな利点となります。

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  • SACが実現するEnterprise Performance Management
  • SACは単なるBIツールの枠を超え、戦略・計画・実行・分析を一気通貫で支えるEnterprise Performance Management(EPM)の基盤としての役割を担うようになっています。

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    BIツールとしてのSACは、リアルタイムに可視化されたダッシュボードやレポートにより、企業の各部門が現状を即座に把握し、データに基づいた日常的な業務判断を支援します。

    SAP Datasphereと連携することで、信頼性の高い統合データをもとに、販売、購買、生産、会計など複数の領域を横断した分析が可能となり、組織全体で一貫性のある情報共有と迅速な意思決定が実現します。加えてEPM(経営管理)領域でのSACの活用は、予算策定、予実管理、将来予測といった計画業務をカバーします。

    SACのPlanning機能を活用することで、部門間で整合性の取れた予算や計画の策定が可能となり、Excelに依存した属人的な運用から脱却できます。リアルタイムなデータ更新に基づき、予算と実績の差異分析やシミュレーションも行えるため、より柔軟で精度の高い経営判断を下すための基盤となります。

    SACは、日々の業務判断を支えるBIツールとして、そして中長期的な戦略・計画策定を支えるEPM基盤として、複雑化する企業経営における中核的な役割を担っています。

    Business Data Cloudがもたらす進化し続けるデータ活用基盤

    SAP Datasphere、SACはBusiness Data Cloudに統合されており、データの収集・統合・分析・活用までを一貫して支えるアーキテクチャの中核を成しています。本コラムでは“正規化されたERPデータ”という側面での昨今のデータ活用の潮流について紹介をさせて頂きましたが、企業経営においてデータ活用の幅はますます広がりを見せています。

    Business Data CloudのSAP Databricksでは半構造化データ(JSON,ログ)・非構造データ(テキスト、画像、音声、動画)も扱うことが可能になります。Business Data Cloudはクラウドならではの俊敏性を活かし、バージョンアップによる継続的な機能拡充や最新のAI機能追加といった恩恵を享受できます。

    これにより、企業は変化の激しいビジネス環境下においても、データドリブンな意思決定力を強化し、競争優位を持続的に高めていくことが可能になります。