ERPの主な機能や活用メリット、注意点、導入手順などを解説
ERPには、生産管理機能や販売管理機能、会計管理機能など、企業の基幹業務を支えるためのさまざまな機能があります。
その機能を有効活用するためには、自社の業務要件や業務プロセスを十分に把握したうえで、適切なERP製品を選定することが重要です。
本記事では、ERPの主な機能や活用メリット、注意点、導入手順などを解説します。
INDEX
ERPとは
はじめに、ERPの概要や由来、基幹システムとの違い、そして統合性について解説します。
ERPの概要
ERPは「Enterprise Resources Planning」(エンタープライズ・リソース・プランニング)の略であり、企業活動において必要な経営リソースであるヒト・モノ・カネ・情報を適切に分配し、有効活用する考え方や計画を指します。
ERPは本来、考え方や計画を指す用語ですが、経営リソースの有効活用においてはシステム基盤が不可欠であるため、統合基幹システムを表すこともあります。
ERPでは、1つのシステムで生産管理や販売、会計、人事といった企業の基幹業務を統合的に管理することが可能です。
ERPの由来
ERPという言葉は、生産管理用語であるMRPから派生したといわれています。
MRPとは「Material Requirements Planning」(資材所要量計画)の略です。必要な資材を、必要なときに、必要な量だけ調達・製造するための生産管理の考え方や方式を表します。
MRPの考え方を、企業全体の経営リソースに発展させた考え方や計画がERPです。
ERPと基幹システムとの違い
ERPは、生産管理や販売、会計、人事などの基幹業務を統合管理することから、基幹システムと混同されるケースも少なくありません。
しかし、ERPと基幹システムでは、それぞれのシステムの位置づけに違いがあります。
基幹システムの特徴
基幹システムは、企業の主要業務を支えるシステム全般を指します。生産管理システムや販売管理システムなどが挙げられます。
いずれも、生産や販売といった特定の業務効率化を目的にしたシステムである点が特徴です。
ERPの特徴
一方でERPは、企業内のさまざまな業務データを統合管理し、企業全体の経営戦略に役立てることを目的としています。
つまり、基幹システムが各業務単位での個別最適化を図ることに対し、ERPは経営視点で全体最適化を図るシステムといえます。
ERPの鍵となる「統合性」
ERPで経営リソースの全体最適化を実現するうえでは「統合性」が鍵となります。
統合性とは、企業内の異なる部門や業務プロセス、情報システム、データベース、アプリケーションなどを、1つの統一されたシステム内でシームレスに連携させることです。
企業内の各部門で業務プロセスや情報システムなどがバラバラである場合、部門間でのデータ連携などが、スムーズに行えません。その結果、業務効率や収益性の低下を招くおそれがあります。
部門ごとに個別最適な状態から脱却し、企業全体の視点で経営リソースの全体最適化を図るためには、ERPで業務プロセスや情報システムなどを統合し、一元的に管理していくことが重要です。
参考記事
- ERPとは?基幹システムとの違いや導入形態・メリットと導入の流れを解説 ERPとは、企業の基幹業務の統合化を図り、企業のあらゆる業務プロセスを一元的に管理するためのシステムです。ERPを導入することで、業務の効率化やコスト削減といったメリットを得られます。本コラムでは、ERPパッケージについてまとめ、導入を実現するためのポイントを分かりやすく解説します。
ERPの主な機能
ERPの主な機能は以下のとおりです。
生産管理機能
生産管理とは、製品の生産計画や製造を行うための人員配置などを通して、製品を生産する業務です。また、原材料の仕入れや製造工程の管理なども生産管理に含まれます。
ERPの生産管理機能には、これらの生産管理の業務を効率化するための機能が搭載されています。
販売管理機能
販売管理機能は、仕入れ・受注・発注・出荷・納品・請求など販売に関する業務をサポートします。
たとえば、ERPでは、受注や発注において品番や数量をシステムに入力して管理できます。ERPの販売管理機能は、企業の販売管理におけるプロセスの効率化や正確性を高める機能が含まれており、売上の増加や顧客満足度の向上などにつながります。
在庫管理機能
在庫管理機能は、商品の在庫管理業務をサポートします。適正な在庫量を常に確保し、販売機会の損失回避や過剰在庫の抑制を実現するためには、適切な在庫管理が欠かせません。
ERPであれば、自社の工場や倉庫、店舗にある商品在庫の数量をリアルタイムかつ正確に把握できるため、高精度な発注作業が可能です。
また、ERP上で在庫数を管理することで、担当者がアナログ作業で在庫の棚卸しや数量確認を行う手間を軽減できるでしょう。
購買管理機能
購買管理機能は、原材料や資材などの仕入れ業務を管理します。
商品の製造に必要な原材料や資材を、いつ、どのくらいの数量で、仕入れるかの計画を立て、実施状況をERP上で管理することで、仕入れ業務の効率化を図れます。
会計管理機能
会計管理機能は、財務・経営状況を説明するための財務諸表の作成や、自社の経営状況の可視化ができます。たとえば、貸借対照表や損益計算書、総勘定元帳など、会計業務に関する各種帳票を作成でき、経理業務の負担軽減に役立ちます。
また、ERPに集約したデータをもとに、自社の経営状況(販売実績、在庫状況など)をグラフや表で可視化できるため、迅速で高度な経営判断にも貢献します。
債権・債務管理機能
債権・債務管理機能は、販売活動で生じた商品の売掛金や原材料の買掛金の管理、入金消込、振り込み状況の管理などを行います。債権・債務管理は、販売業務や購買業務などと密接に関わっていることから、販売管理機能や購買管理機能と連携できるケースも多くあります。
たとえば、購買管理機能から原材料や資材の仕入れデータの連携を受けることで、買掛金の自動管理を行うことが可能です。
また、インターネットバンキングと連携し、入金データと債権データの自動消込や取引先への支払い日時予約なども行えます。
人事管理機能
人事管理機能は、自社の従業員の所属組織や役職、異動履歴、家族情報、通勤経路などを管理します。各従業員の給与計算や、配置転換の検討といった人事上の業務・手続きを円滑に進められます。
また、各従業員の勤怠管理やスキル保有状況、研修の受講状況などを人事管理機能として管理できるERPも登場しています。
ERPの機能を活用するメリット
ERPの機能を活用することで得られる代表的なメリットは、以下のとおりです。
経営データをタイムリーに把握できる
ERPの機能を活用する大きなメリットは、経営データをタイムリーに把握できることです。ビジネスインテリジェンス(BI)機能などを活用することで、各種データの集計や可視化が可能です。
たとえば、商品の販売実績や在庫状況、生産状況などをBI機能の1つであるダッシュボードなどでタイムリーに表示できます。これまでデータ収集に時間がかかっていた販売実績や在庫状況をリアルタイムに可視化することで、迅速な経営判断に役立ちます。
コンプライアンス遵守につながる
ERPで企業内のデータを統合的に管理することで、社内のコンプライアンス遵守にもつながります。
企業内の各部署でデータがバラバラに管理されている場合、データの統制が取りにくく、情報漏えいなどを引き起こすリスクが高まります。万が一社員による意図的なデータの改ざんやデータの持ち出しが生じても、ただちに検知することができません。
ERPを導入してデータを一元管理すれば、より透明性の高い経営を実現できます。
データの一元管理により全体最適が図れる
ERPでは企業内の各種データを一元管理できるため、企業全体の最適化を図れます。
たとえば、企業内にさまざまな部署が存在する場合、それぞれの部署間で縦割りの構造になっている場合があります。部署ごとに属人的なデータ管理を行っていると、他部門と円滑にデータ連携が図れません。
ERPによって各部署のデータを一元管理することで、部署間の壁や隔たりをシステム面から解消でき、会社全体にとっての最適なデータ管理を実現できます。
業務プロセスを効率化できる
業務プロセスを効率化できる点もERPを活用するメリットです。
ERPを導入すると、これまで部署ごとに管理されていた生産管理システムや会計システム、人事システムなどの各基幹システムの情報が統合化され、1つのシステムで管理できます。
各部署でバラバラにデータを管理していると、業務の重複が生まれやすく、多くの手間やコストがかかります。
たとえば、四半期ごとの決算時期が近づくと、各部門から販売データや生産データを収集し、会計システムに入力する大変な作業に追われるケースも多いでしょう。
ERPでは、会計システムや生産管理システムのデータを一元管理できるため、部門間でのデータの授受や入力の手間が省け、効率的に業務を進められます。
業界のベストプラクティスを反映できる
ERPの導入により、業界のベストプラクティスを取り入れられるメリットもあります。
ERPを提供する企業は、各事業会社とのこれまでの取引を通じて、各業界の業界標準となるノウハウを蓄積しています。そのため、ERPを導入することで、業界で高収益を実現している企業の業務プロセスを自社に反映させることが可能です。
加えて、ERPで定義されている標準的な業務プロセスと自社の業務プロセスを比較することで、自社の業務プロセスに対する改善の余地を見つけるきっかけにもなります。
ERPを導入する際の注意点
ERP導入には多くのメリットがある一方、注意点も存在します。主な注意点は以下のとおりです。
自社が求める機能を備えたERP選定やデータ整備に時間がかかる
さまざまな企業がERPを市場に提供しているため、多くの製品が存在しています。そのため、自社のビジネス要件や求める機能に適した製品選定が求められます。
製品選定の際は、ベンダーとの打ち合わせや、各ERPの比較検討を行う期間が必要となることに注意が必要です。
また、ERPを導入してデータを一元管理していくためには、既存の各種データの形式や入力様式を事前に統一する作業が必要となるなど、データ整備に時間がかかる可能性があります。
導入コストがかかる
ERP導入時には相応のコストがかかる点にも注意が必要です。
導入時のイニシャルコストに加えて、導入後のランニングコストも必要です。導入にあたっては、事前の予算計画が欠かせません。
たとえば、導入時にはハードウェア費用や導入サポート費用、機能カスタマイズ費用、導入後にはサブスクリプション費用や保守運用費用がかかることを理解したうえで、費用対効果を考慮した検討が必要です。
社員教育に時間とコストがかかる
ERP導入後は、ERPを活用して業務を遂行していくことになりますが、導入前後では既存の業務プロセスの見直しや、新しい業務プロセスの策定が必要です。
新しい業務プロセスに自社の社員が慣れるまで、習熟のための社員教育に時間とコストがかかる点も考慮すべきです。
ERPを企業に導入する方法・手順
ここでは、ERPを企業に導入する具体的な方法・手順を解説します。
ERP導入目的の明確化と関係者との合意形成
まずは、ERPの導入目的を明確にすることが大切です。
目的が不明確であると、必要な機能が実装されないままERPを導入してしまったり、一部の部署の業務が煩雑になってしまったりと、ERPの導入効果が薄れてしまうおそれがあります。
ERPを活用して解決したい企業の課題を明確にすることで、スムーズなERP導入につながります。
また、明確化したERPの導入目的を、社内の関係者と共有することも重要です。
ERP導入後に業務プロセスなどが変更される場合、社内の関係者に影響を与えることになり、一時的に負荷が高くなるおそれがあります。
新しい業務運用へ円滑に移行するためにも、ERPの導入目的を社内全体に周知し、関係者と事前の合意形成を図っておきましょう。
導入体制の構築
目的を明確化し、社内で共有したら、ERP導入体制を整えていきます。社内への円滑な導入を進めるためには、発言力の強い経営層や責任者層を巻き込むことがポイントです。
また、ERP導入においては、社内の業務プロセスの確認や改善検討が必要となるため、各部署から現場業務に深い見識を持つメンバーの選定が必要です。
業務プロセスの現状整理
導入体制を整備後、業務プロセスの現状整理を行います。
各部署で実施している業務内容や業務プロセス、使用ツールなどの棚卸しを行うことで、ERPとの機能比較がしやすくなります。
新しい業務フローの作成およびFit&Gap分析
業務プロセスの現状整理を終えたら、ERP導入後に実施する新しい業務フローを作成します。
洗い出した現状の業務やツールをもとに、変更・改善を行う部分を具体化していきます。
業務効率化に向けては、ERPの標準機能でカバーしていくFit to Standard(フィット トゥ スタンダード)の考え方を採用することが主流です。
そのうえで、自社の業務特性などによってERPではカバーできない部分のFit&Gap(フィット&ギャップ)分析を行い、ERPシステムのカスタマイズや周辺システムでカバーする方法を検討します。
必要に応じて柔軟なカスタマイズを行えるよう、拡張性の高いERPを選定することも重要なポイントです。
社内の関係部署やERPベンダーと相談しながら、全体の業務効率性を踏まえてERPの適用範囲を定めていきましょう。
ERPのテスト導入
ERPの導入フェーズでは、テスト導入から実施していくことがポイントです。
いきなり本格導入して社内利用を始めてしまうと、万が一新しい業務プロセスやERPシステムに大きな不具合があった場合、業務に大きな影響を与えてしまいます。
まずはテスト導入して既存の業務プロセスやツールと並行運用しながら、新しい業務プロセスやERPに問題がないかの確認が必要です。
ERPの本格導入
テスト導入による検証ができたら、ERPを本格導入していきます。
社内の関係者が新しい運用に早く慣れるよう、ERPの運用マニュアル作成や導入説明会を実施すると効果的です。
また、導入後も運用を続けていくなかで、さらなる改善点が見つかる場合があります。そのため、定期的に運用状況の確認や改善要望の収集を行い、ERP機能の調整を行っていくことが大切です。
ERPの主な種類と提供形態
ERPには、主に以下3つの種類があります。
また、提供形態としては、主に以下の方式が挙げられます。
それぞれの種類や提供形態について解説していきます。
ERPの種類について
統合型
統合型は、企業活動において必要となる一通りの機能を備えたERPです。
企業内のあらゆるデータを統合的に管理できるため、複数の部門にまたがる幅広いデータの連携や業務効率化を実現できます。
一方で、まとまった機能を備えたERPを導入することになるため、導入コストは高額となる傾向があります。
業務ソフト型
業務ソフト型は、生産管理や販売管理など特定の業務領域に特化したERPです。
必要な業務に特化することで、短期間かつ低コストでのERP導入を実現できます。
その反面、大手企業や多種多様な事業を展開する企業にとっては、業務ソフト型のERPではすべての業務範囲をカバーできない可能性があります。
コンポーネント型
コンポーネント型は、ERPの各種機能をそれぞれ部品のように組み合わせて導入できるERPです。
柔軟性や拡張性に優れており、企業の業務要件に応じてカスタマイズしやすいメリットがあります。
社内の既存のIT資産を活かしつつ、部分的に機能追加や機能拡張を行っていきたい企業などに向いています。一方で、根本的な業務プロセスの改革や情報システムの刷新にはあまり適していません。
ERPの提供形態について
オンプレミス型
ERPの提供形態のひとつにオンプレミス型があります。
オンプレミス型とは、自社にサーバーなどの設備を物理的に導入し、ERPを構築する方法です。
オンプレミス型を採用することで、個人情報や機密情報などを自社のセキュリティ環境で堅牢に保護できるメリットなどがあります。
ただし、導入期間や導入費用が多くかかる傾向にある点がデメリットです。そのため、後述するクラウド型にシフトしていく企業も多くなっています。
クラウド型
クラウド型は、インターネット上のクラウドサービスを介してERPを構築・利用する方式です。
自社でサーバーなどの設備を導入する必要がなく、クラウド型ERPを契約するだけでERPの構築・利用ができる点がメリットとなります。
オンプレミス型と比べて導入期間や導入費用を少なく抑えられるため、多くの企業にとってクラウド型ERPが主流になりつつあります。
一方で、社内のセキュリティポリシーなどによっては、機密情報保持の観点からクラウド型ではなくオンプレミス型を利用し続ける企業も存在します。
ハイブリッド型
ハイブリッド型は、オンプレミス型とクラウド型を組み合わせたERPの提供形態です。
オンプレミス型とクラウド型の両方の利点を活かせる点がメリットです。
たとえば、機密性の高いデータやアプリケーションはオンプレミス環境で保持しつつ、その他はクラウド環境で運用することで、高いセキュリティ性と運用の柔軟性を両立させることができます。
また、重要なデータが集中する本社ではオンプレミス型ERPを利用し、その他の支社や地域拠点ではクラウド型ERPを利用するなど、拠点別に提供形態を分ける方法もあります。
ポストモダンERPとは
デジタル技術の進歩が著しい近年では、デジタル技術とERPを組み合わせた製品開発や取り組みも多く行われています。たとえば、次世代型ERPのあり方を表す言葉として注目を集めているのが、ポストモダンERPです。
ERP自体の機能は最小限の対象業務に絞りつつ、さまざまなクラウドサービスなどを活用して機能を補完する考え方やシステム構成を指します。
ポストモダンERPを採用することで、保守運用コストの低減や他システムとの効率的な連携を実現でき、ビジネス変化により柔軟に対応できるようになるでしょう。
まとめ
ERPには生産管理機能や販売管理機能、会計管理機能などさまざまな機能が搭載されています。
ERPの活用によって、業務プロセスの効率化やデータの一元化、経営データのタイムリーな把握などが実現可能です。一方で、自社が求める機能を備えたERP選定に時間がかかる点や、導入コストがかかる点には注意しましょう。
ERPを自社に導入する際には、まずERP導入目的の明確化や関係者との合意形成、体制整備を行います。
そのうえで、業務プロセスとERP機能とのFit&Gap分析などを実施し、ERPを段階的に導入していくことがポイントです。ERP機能は製品タイプによっても異なり、一通りの機能を備えた統合型、特定の業務領域に特化した業務ソフト型、機能の柔軟な組み合わせが可能なコンポーネント型があります。
自社の業務や商習慣に合ったERPを選定・導入し、業務効率化やデータの一元管理などを実現していきましょう。
関連資料
-
基幹システムソリューションガイド(大全)
NTTデータ グローバルソリューションズが提供するお客様のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するためのソリューションガイドです。ぜひ、ご一読ください。 ダウンロード
-
DXを実現するSAP S/4HANA🄬新規導入
デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するための基盤としてSAP S/4HANA🄬が注目を集めている。しかし、SAPS/4HANA🄬の新規導入にはいくつかの押さえるべきポイントがある。NTTデータ グローバルソリューションズが、SAPS/4HANA🄬を活用した基幹システムの最適な導入に向けてどのように支援し、DX推進を実現するをご提案します。 ダウンロード