IoTで実現する製造現場の「見える化」とは?
IoT(モノのインターネット)の普及に伴い、生産、在庫管理状況、そして、エネルギー消費などを可視化して効率を高める「見える化」という言葉が注目されています。
2019年にアイティメディアが実施した調査では、IoT(モノのインターネット)に期待することとして「工場、人、設備などの状態の可視化による生産性の向上」と「製品の不良検出や原因分析による品質の向上」がそれぞれ1位、2位です。
製造業においては、例えばトヨタ自動車株式会社の「アンドン」システムなど、生産工程の状況を報告する手法が以前から活用されていますが、IT技術の進歩により取得できるデータの種類や取得・蓄積・表示する方法、また、そうしたデータを分析し業務効率化に活かす動きがより高度化しています。
また「スマートファクトリー」の実現には、IoTの活用によって製造現場を見える化し、生産管理や在庫管理の自動化により製造業の生産性を高めることが不可欠といえます。
コネクテッドインダストリーズ
経済産業省はこうした動きを後押しするための戦略として、「コネクテッドインダストリーズ(Connected Industries)」を打ち出しました。2017年3月、ドイツで開催された国際情報通信技術見本市「CeBIT 2017」で発表されたもので、CeBIT 2017に合わせて行われた日独首脳会談では、安倍晋三首相がメルケル首相に、コネクテッドインダストリーズは「日本の産業の未来を示す新たなビジョン」であると紹介しています。当時の世耕経産相は、コネクテッドインダストリーズが描く産業の将来像について「企業と企業、機械と機械、人と人などがデータを介して“つながる”世界」と説明しています。
その背景には、製造現場に正確なデータが蓄積されている日本の製造業の強みをいかそうという構想があります。
「見える化」は手段であり目的ではない
日本の製造業に正確なデータが蓄積されているといっても、それがただ存在しているだけでは新たな価値を生むことはありません。データを蓄積するだけではなく、それらを分析し、付加価値の高い情報として活用することが必要です。
例えば、国内大手エレクトロニクスメーカーでは、製造機械の稼働データを蓄積、分析することで、機械トラブルの原因を可視化することに成功しました。以前は、熟練工でも原因追及に6時間かかることもあったのが、見える化により、誰でも1時間で解決できるようになったといいます。
また、建材メーカーでは、工場内の温度や湿度、また、これらの数値を元にした快適性と消費電力量をリアルタイムで表示する仕組みを導入し、夏季の生産重量当たりの空調エネルギー消費を約2割削減することに成功しました。
人材の高齢化や人手不足が課題となっている日本の製造業においては、熟練技術を有する職人や、品質や技術力を裏打ちする良質なデータが現場に残っている間に、将来の姿を見据えた対策を行うことが急務といえます。
経産省が発表した「2019年版ものづくり白書」によれば、個々の機械や製造工程全般の稼働状態について見える化を行い、改善等に取り組む企業の数は年々増加傾向にあります。製造工程を見える化し、生産工程の改善に活かす動きは拡大しているといえるでしょう。
製造現場の改善を超えたIoT活用の動き
海外では、製造工程だけでなく、出荷後の製品の使用状況についてのデータを収集し、品質改善や新たな製品やサービスの開発に活用する動きが進んでいます。例えば、米大手自動車メーカーは、継続的な品質改善を目的として、出荷後の自動車のパフォーマンスや故障率のモニタリングを行っているほか、ディーラーのシステムと工場を連携させ、販売状況から需要予測を行い、工場の稼働を調整するなどのデータ活用を行っています。
上述の「2019年版ものづくり白書」によれば、収集したデータを、顧客とのやりとりや、マーケティングの効率化に活用している企業は4%でした。
日本の製造業においては、こうしたデータ活用の動きはまだ本格化していません。しかし今後は、製造工程の改善や効率化だけでなく、バリューチェーン全体を見据えたデータ活用が必要になっていくことでしょう。
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