化学業界が抱えるサプライチェーンに関わる課題とその解決方法とは第2回 サプライチェーン計画業務の共通基盤の仕組み
化学業界におけるサプライチェーン管理の課題とその解決策について4回に渡ってご紹介します。本記事では、グループ共通基盤として機能するサプライチェーン計画システムの必要性と、その仕組みについてです。
ぜひ、ご一読ください。
INDEX
はじめに
第1回ブログでは、化学業界において近年、サプライチェーン管理の重要性が高まってきており、グローバルを意識したサプライチェーン管理の仕組み作りが喫緊であると課題提起しました。また、サプライチェーンに関わる現行の計画業務(製造・販売・在庫・調達・配送等)でお客様からよくお聞きする課題について考察しました。
その根本原因はサプライチェーン計画業務のグループ共通基盤が存在しないためであることから、グループ共通基盤としてのあるべき姿について解説しました(図-1)。
今回(第2回)は、図-1で示した「サプライチェーン計画システム」がグループ共通基盤としてどのような仕組みとなるのか解説します。
グループ共通基盤として、どのような仕組みが必要なのか
事業部ごとに作成されている需要計画や供給計画が共通の場所に格納され、共有できることだけでは共通基盤としては不十分です。
以下、5つの要件事項を考慮した共通基盤であることが必要です。
販売計画や生産計画の情報が共有化されていない(メールで情報連携している)、海外販社からの販売情報がタイムリーに入手できていない、というケースがよくあります。まずは計画情報が海外販社等を含めて共有できる仕組みが必須と言えます。
また計画案は1つとは限りません。複数案を作成し、関係者とその案を共有してベストな計画案を協働で作り上げるための、計画情報共有の仕組みが必要です(① )。
需要計画立案では、販売実績や基本契約情報、受注状況等を見ながら担当者の経験と勘で販売計画を手作業で作成されているケースが多いです。
供給計画では出荷計画、生産計画、在庫計画、調達計画の4つの観点で計画を作成する必要があります。これらの計画は部門をまたがり、それぞれが依存しており、部門間の調整に多大な労力がかかっています。
これは計画を立案する作業の作業負荷だけの問題だけではなく、属人化の原因でもあります。計画案を作成する作業は可能な限り自動化・高度化させてシステムたたき台(必要に応じて複数案)を作成し、計画担当者はそのたたき台をもとに最適な案を決定する作業や新たなアイデアを引き出す作業に集中できることが必要です(②)。
②については第3回、第4回のブログであらためて掘り下げます。
計画立案作業は特定の顧客、製品、在庫保管場所、生産リソース等にフォーカスして行います。敢えていうと狭い範囲に集中します。
一方で、計画を会社全体で俯瞰的に見て無理がないか可視化することが必要です。
さらに過剰な在庫や、生産資源の過負荷等がある場合には計画担当者に通知することも必要です(③)。
需要計画、供給計画の立案・討議・承認といった活動は、月次の定例業務(例:生販会議)として多くの計画担当者によって部門をまたがって実施されています。
毎月の作業であっても、生販会議に向けた事前準備作業(需要計画案作成、供給計画案作成)、会議開催に関わる連絡や調整に多くの時間を割いていることでしょう。
そのため、事前準備作業を含めた定例生販会議を業務プロセスとして定義し、計画担当者をこの会議に自動的かつ繰り返して巻き込む仕掛けが必要です(④)。
計画立案は、サプライチェーン計画システム内で完結するものではありません。
経営管理システムや基幹システムから事業計画、販売実績、マスタ情報等を連携することで、精度の高い計画をタイムリーに立案することが可能になります。さらにこれにより経営活動のPDCAが確立できます(⑤)。
SAP IBPは6つのモジュールとSAP IBPプラットフォーム、SAP HANAで構成されています(図-2)。
本ブログでは、図-2に記載したモジュール等の機能概要は英語名称の下方および右に記載した文言レベルに留めています。
なお、これらのSAP IBPモジュールは6つすべてが必須ではなく、業務要件によって必要となるモジュールを選択します。また、適用モジュールの段階的な拡張も可能です。
上述の①~⑤の事項がSAP IBPのどの機能に対応するのかを概念的に図示しました(図-3)。
少々我田引水的ですが、SAP IBPは①~⑤の事項に対して対応する機能を提供していることがわかると思います。
このことから、NTTデータGSLはサプライチェーン計画システムにSAP IBPの適用を推奨しています。
計画情報の共有と計画立案支援
すこし技術的な視点で、計画情報の共有と計画立案支援がどのように実現されているかを紹介します。大まかにご理解いただけるように、SAP用語をできるだけ使わずに説明します(図-4)。
先ほど、SAP IBPには6つのモジュールがあると説明しました(図-2)。これら各モジュールの機能に対応したデータモデルとして“計画モデル”が提供されています。
この計画モデル内に、需要計画や供給計画等の計画情報や計画立案に必要となるマスタデータが格納されます。
計画ビュー(計画立案画面)にはExcelが適用されています。「あれ?Excel使用を否定していたのでは?」と思われるかもしれませんね。
しかし、SAP IBPはExcelの操作性や表現力の優れた点に着目して計画立案画面に採用しています。なお、Excelをそのまま使うのではなく、需要契約や供給計画等の計画立案作業を支援するExcel Add-inプログラムが提供されます。
計画ビュー(計画立案画面)で計画モデル内に格納された各種情報を使って需要計画や供給計画等の計画立案作業を実行します。
計画立案作業の結果は計画モデル内に格納され、計画担当者間で情報共有が可能となります。複数の計画案を作成して計画モデル内に格納し、必要に応じて計画担当者と共有することも可能です。
さらに、計画作業をより高度化する目的で需要予測エンジンと供給計画エンジンが提供されています。これらのエンジンは「経験と勘」や「属人化」といった課題解消に貢献するのではないでしょうか。
生販会議の業務プロセス
計画情報の共有と計画立案支援をSAP IBPでどのように実現しているか、簡単に説明してきました。
SAP IBPというツールを業務のなかで活かすには、計画業務の業務プロセスの流れを設定して、計画業務に関わる関係者を巻き込むような仕掛けも必要です。
皆様の会社では、事業計画に基づく次年度計画や半期修正計画を行う生販会議(トップダウン型)と、通常月(期中)で受注状況変化や生産状況変化を計画に反映する生販会議(ボトムアップ型)の、大きく2つの性格を持つ生販会議を運営されているのではないでしょうか。
ここでは、通常月(期中)に開催する生販会議として、A事業部の生販会議業務プロセスを例示しました(図-5)。
この例では、生販会議は毎月下旬ごろに開催しています。この会議に向けて営業部門と生産部門の計画担当者が需要計画、供給計画のたたき台を事前に準備するという業務プロセスです。
需要計画案作成では各営業課が担当する顧客の販売計画に、受注状況などを反映して前月の計画の修正を行い、A事業部が需要計画案として取りまとめます。
供給計画案の作成においては、営業部門から受け取った需要計画を生産管理部門が受け取り、物流部門や資材部門、購買部門と協働して供給計画案をまとめます。
現在は、営業部門からの需要計画に基づいて各部(生産管理部門、物流部門、資材部門、購買部門)がメール等で調整しながら独自に計画案を作成されているケースが多いと思います。
したがって「供給計画案作成」のように1つの枠で括れるものではないかもしれませんが、この例では各部門が協働して供給計画案を作成する業務プロセスとしています。この意図は、第4回のブログで説明します。
SAP IBPによる生販会議の進捗管理
SAP IBPでは定例化した業務プロセスを定義して、関係者を巻き込み当該の業務プロセスを推進させる機能が提供されています。この機能は定例化された業務プロセスだけでなく、一時的に発生する業務にも対応可能です。
では上述のA事業部の生販会議をSAP IBPで実現する例を紹介します。
A事業部の生販会議の業務プロセスは、SAP IBPではステップとタスクで表現されます(図-6)。この図ではステップ名称、タスク名称のみを記載していますが、ステップ、タスクの内容説明や日程、参加者等の情報があります。
この業務プロセス定義に基づき、生販会議を進めているSAP IBP画面例を記載しました(図-7)。この画面例では、生販会議の準備作業である需要計画案作成と供給計画案作成が完了して、需要計画・供給計画レビューにこれから着手するというステータスとなっています。
また、生販会議は毎月繰り返し開催されるため、繰返業務プロセスとして設定することも可能です(図-8)。
おわりに
グループ共通基盤としてどのような仕組みが必要か、5つの要件事項を挙げました。さらにこの5つに対して、① 計画業務の共有、②計画案作成支援、④計画業務のプロセス管理にSAP IBPを適用したイメージを少し掘り下げて説明しました。
ここまでの説明でサプライチェーン計画を立案する関係者を巻き込み、関係者同士が協働して需要計画や供給計画を作り上げていくグループ共通基盤のイメージが湧いてきましたら幸いです。
続く第3回、第4回は、SAP IBPを適用した需要計画立案作業と供給計画立案作業について説明します。