デジタルサプライチェーンとは?デジタルサプライチェーンの概要や重要性、メリットなどをご紹介
新型コロナウイルス感染拡大や紛争問題などを背景に、世界中で部品供給遅延などサプライチェーンの混乱が発生しています。
そこで注目されているのが、デジタル技術を活用してサプライチェーン業務を変革する「デジタルサプライチェーン」です。
本コラムでは、デジタルサプライチェーンの概要や従来のサプライチェーンとの違い、メリット、課題、構築のポイントなどを解説します。
ぜひご一読ください。
INDEX
デジタルサプライチェーンとは
デジタルサプライチェーンとは、デジタル技術を活用してサプライチェーン業務を変革する取り組みや構築システムです。
デジタル技術を用いて部署間および企業間のデータを可視化して、タイムリーかつ精緻にサプライチェーンの状況を共有していくことを目指しています。加えて、共有したデータに基づいてサプライチェーンにおける意思決定の迅速化を図ることも目的といえるでしょう。
従来のサプライチェーンとの違い
では、デジタルサプライチェーンは従来のサプライチェーンと何が違うのでしょうか。
「サプライチェーン(Supply Chain)」は、直訳すると「供給の鎖」です。つまり、商品を消費者に届けるまでの一連の流れ(原材料や部品の調達、商品の製造、在庫管理、配送、販売、消費)を意味します。これまでのサプライチェーンに関する業務は、紙媒体を中心とし、人手による作業が多く存在していました。
たとえば、商品の在庫管理を担当者が紙とペンを使って行う、商品の需要予測を担当者の勘と経験で行うことが挙げられます。
一方でデジタルサプライチェーンでは、デジタル技術を活用して、データ中心で人手を必要としないサプライチェーン業務の実現を目指しています。
紙中心のアナログ管理からデータ中心のデジタル管理へと変革し、かつ人手依存からの脱却を目指す点において大きな違いがあるといえるでしょう。
なぜデジタルサプライチェーンが重要なのか
デジタルサプライチェーンが重要視されている理由として、主に以下の2点が挙げられます。
社会情勢の変化
近年、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大や紛争問題が発生しています。
このような社会的リスクによって、半導体などの部品供給が困難になると、世界中でサプライチェーンに混乱が生じることになります。
そこで、サプライチェーンの対応力・回復力を高め、不測の事態による混乱を最小限に留めるアプローチとして、デジタル技術を使ったサプライチェーンの可視化や効率化が求められているのです。
人手不足への対応
特に日本では、少子高齢化問題が深刻化しています。
労働人口の減少によって、在庫管理や配送など、サプライチェーン業務の担い手は今後大きく減少していくでしょう。
人手不足へ対応していくためにも、デジタル技術を用いたサプライチェーンの業務効率化や生産性の向上が求められています。
デジタルサプライチェーンの現状
デジタルサプライチェーンは、まだ認知度が低く、発展途上の取り組みといえます。
経済産業省の調査によると、サプライチェーンに関わる情報のデジタル化は、金融や生産に関わる情報のデジタル化と比べてあまり進展していない状況です。
また、製造業のなかでも進展状況はさまざまです。
たとえば、電子・機械・化学・石油産業はサプライチェーンのデジタル化が比較的進展しているのに対し、木材・家具・繊維産業ではデジタル化の進展が低位に留まっています。
このような差には、部品数などによるサプライチェーンの複雑性の違いや、安全基準への法的対応の必要性が影響していると考えられます。
デジタルサプライチェーンを実現するメリット
発展途上にあるデジタルサプライチェーンですが、実現することで得られるメリットも多く存在します。
メリット1. レジリエンスの強化
サプライチェーンの可視化によって、不測の事態への対応力や回復力(レジリエンス)の向上が図れます。
これまでは、紙媒体や電話でやり取りされたアナログ情報や、一部の企業間でしか共有されていない局所的な情報も多く存在していました。
これらのデータを可視化すれば、広範囲のサプライヤーや関係者と情報を共有できるようになります。
サプライチェーン全体での情報共有を促進することで、ボトルネックが生じているサプライヤーの把握や、調達への影響判断をタイムリーに行えます。
メリット2. 生産性の向上
サプライチェーン業務の生産性向上をもたらす点も、デジタルサプライチェーンを構築するメリットです。
サプライチェーンに関する情報を可視化することで、スピーディな情報のやり取りができ、効率的な業務推進につながります。
無駄な在庫の削減や、部品調達の精度向上も実現できます。
メリット3. 企業間のコミュニケーションの効率化
デジタルサプライチェーンの実現は、企業間のコミュニケーション効率化にも役立ちます。
これまでの紙媒体や電話などのアナログ作業では、コミュニケーションに時間がかかるうえ、情報伝達ミスのリスクもありました。
企業間のやり取りをデジタル化することで、生産や配送などの情報をデータで正確かつタイムリーに共有可能です。
これにより、企業間のコミュニケーションを効率化でき、スムーズな取引につながります。
参考記事
- レジリエンスとは? レジリエンス(Resilience)とは、復元力や回復力、弾力などを表す言葉です。現在ではビジネスの世界でも注目され、様々なリスクにさらされる中においても成長を続けるためには、リスクに対しても柔軟に、かつ迅速に対応することを可能にするレジリエンスが不可欠だという共通認識があります。本記事では、レジリエンスの意味、それが注目された理由についてより詳しくご紹介します。ぜひ、ご一読ください。
デジタルサプライチェーンの恩恵が特に大きい製品例
デジタルサプライチェーンの実現によって、特に大きな恩恵を受ける製品の例を紹介します。
スピーディな商品提供が求められる製品
デジタルサプライチェーンによって、サプライチェーン業務のスピード向上を図れます。
そのため生鮮食品のように、スピーディな商品提供が求められる製品には大きなメリットとなります。
原産地の情報や運搬ルートの証明が必要となる製品
食料品や農産物など、原産地の情報や運搬ルートといった確かな品質の証明が必要な製品にも恩恵が大きいといえます。
デジタルサプライチェーンでは、ブロックチェーンなどの技術を活用して原産地の情報や運搬ルートを保証することも可能です。
企業間のやり取りや契約締結が頻繁に生じる製品
先進的な技術を用いた機械などは、慎重な検証や確認が必要となるため、企業間での情報のやり取りが多く発生します。
このように、企業間で頻繁に情報の伝達や契約締結などが生じる製品についても、デジタルサプライチェーンによるコミュニケーション効率化が役立ちます。
より効果的な在庫管理が求められる製品
製品の種類や数が多いと、在庫管理も複雑になります。
そのため、多種多様な製品種別の在庫管理においても、デジタルサプライチェーンによるデジタル化で業務効率化を図れます。
デジタルサプライチェーンにおける課題
デジタルサプライチェーンは多くのメリットをもたらす一方で、課題も存在します。ここでは、デジタルサプライチェーンの主な課題を4点解説します。
課題1. 業務のデジタル化
デジタルサプライチェーンの実現には、デジタル化に向けた事前対応が必要です。
具体的には、企業の生産現場などをデジタル化し、サプライチェーンに関する情報をデータとして収集できる状態にしておかなければなりません。
企業内の生産現場などのデジタル化が進んでいない場合、まずは足元のデジタル化推進から行うことが求められます。
課題2. デジタル化に向けた予算確保や部門間・企業間の合意形成
デジタル化推進においては、業務プロセス変革に向けた検討工数やツール導入費用など、さまざまな費用がかかります。
それぞれの項目のデジタル化に向けた予算を確保する必要がありますが、部門間や企業間の調整が生じる場合も多く、一筋縄ではいかないのが実態です。
そのため、デジタル化の目的やメリットについて部門間や企業間で共通認識を持ち、根気強く合意形成を図っていく活動が求められます。
課題3. セキュリティ面のリスク対策
デジタル化に伴ってサイバー攻撃のリスクも増大するため、十分なリスク対策を行っていくことが肝要です。
独立行政法人情報処理推進(IPA)の「情報セキュリティ10大脅威 2022」によると、「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」がサイバーセキュリティの脅威として第3位にランクインしています。
同項目は昨年時点では第4位であったことを踏まえると、サプライチェーンへのサイバー攻撃の脅威はますます高まっているといえます。
課題4. 部門間・企業間のデータ連携方式の調整
デジタルサプライチェーンでは、部門間や企業間で共通的なデータのやり取りが発生します。
そのため、共有するデータの規格や単位などを合わせる必要があります。サプライチェーン業務は部門や企業にまたがる広範囲な業務となるため、共有する情報の内容や共有範囲について、関係者と認識を合わせていくことも重要です。
デジタルサプライチェーンを展開していくステップ
ここでは、デジタルサプライチェーンを展開していく3つのステップを説明します。
ステップ1. 自社内の製造現場などの情報のデジタル化
はじめに、自社内の製造現場などの情報をデジタル化します。
デジタルサプライチェーンを構築するうえでは、自社の発注データや在庫データなどをデジタル化し、関係先と連携する必要があるためです。
また、発注データや在庫データをデジタル化することで、自社内でも受発注状況や在庫状況をタイムリーに把握できるようになります。
自社内の各種データをデジタル化して管理していく際には、ERPやビジネスインテリジェンス(BI)の活用が有効です。
ステップ2. 協業する他社も含めたデータ連携およびデータの可視化
デジタルサプライチェーンの範囲は、自社内だけではなく、サプライヤーなど協業他社も含めた広範囲なものとなります。
そのため、企業内のデータを、組織を超えたサプライチェーン全体で共有し、最適化を図る必要があります。
サプライチェーン全体での情報共有においては、IoTやブロックチェーンを活用できます。
IoTを通じて各現場や機器からデータを収集し、ブロックチェーンを介して組織を超えたデータの共有・保証をすることで、サプライチェーンの全体最適化を促進します。
ステップ3. サプライチェーン全体におけるリスクの早期予測および計画への反映
サプライチェーン全体業務のさらなる高度化・精緻化を図るためには、リスク予測も重要です。
サプライチェーンにおけるリスク予測を早期に行うことで、在庫計画や物流計画をより高精度に実施できます。
たとえば、AI技術を用いたデジタルツインを構築し、さまざまなリスク予測やシミュレーションを事前に行うことが可能です。
デジタルサプライチェーンを構築するためのポイント
デジタルサプライチェーンを構築するうえで押さえておきたいポイントを解説します。
企業間の情報のやり取りに共通の仕組みやルールを設ける
デジタルサプライチェーンでは、多岐にわたる関係者間でデータを共有していきます。
そのため、企業間の情報取引におけるフォーマットを共通化し、データ連携の規格を合わせることが効果的です。
たとえば、中小企業庁では、国連CEFACT標準に沿った「共通EDI標準」の導入を提唱しています。
部門間・企業間の協力関係の構築
デジタルサプライチェーンを構築するためには、幅広い関係者との協力が不可欠です。
自社内にシステムを導入するのであれば自社内の部門間の調整のみで終わりますが、サプライチェーン業務では企業を跨いだ全体での調整が必要です。
まずは各関係先のキーマンなどに人数を絞って入念な議論を行い、サプライヤー全体をどのように巻き込んでいくかを検討します。
デジタル化のためのシステム基盤の整備
デジタルサプライチェーンでは、サプライチェーンに関する情報のデジタル化およびデータ共有が前提となります。
デジタル化を実現するには、生産や在庫などに関するデータを収集・共有できるようシステム基盤の導入および整備が必要です。
システム基盤の整備においては、自社内だけの個別最適システムとならないよう、各サプライヤーも含めた全体最適の視点を持つことが大切です。
たとえば、自社内にシステムを導入する場合でも、API連携機能やシステム拡張性などを考慮しながら推進していきます。
まとめ
デジタルサプライチェーンは、デジタル技術を活用してサプライチェーン業務を変革する取り組みです。サプライチェーン間でのタイムリーかつ精緻な情報共有や意思決定の迅速化を目的としています。
近年では、新型コロナウイルス感染拡大などによって、世界中でサプライチェーンの混乱が問題となっています。国内における労働人口減少の問題も相まって、デジタルサプライチェーンは今後注目度を増していくでしょう。
デジタルサプライチェーンを構築することで、不測の事態への対応力強化や生産性向上、企業間のコミュニケーション効率化を図れます。
一方で、企業内のデジタル化推進や予算確保、部門間・企業間の調整、セキュリティ対策などの課題も存在しています。
デジタルサプライチェーンは企業を跨いだ広範囲なものであるため、企業間の共通の仕組みや協力関係の構築、API連携や拡張性などを意識したシステム基盤の整備も大事なポイントです。
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