グローバルコンプライアンスとは?グローバルコンプライアンスの重要性や課題、対応策などを解説
グローバルに事業を展開する企業においては、海外子会社や関連会社も含めて事業活動を管理し、グローバルコンプライアンスを徹底していくことが必要です。
一方で、海外現地法人の事業活動の実態を把握することが難しいなど、グローバルコンプライアンスにはさまざまな課題が存在します。
本記事では、グローバルコンプライアンスの重要性や主な課題、対応にあたって必要となるポイントについて解説します。
ぜひご一読ください。
INDEX
グローバルコンプライアンスとは
そもそもコンプライアンスとは、英語の「compliance」に由来する用語であり、日本語では「遵守」や「適合性」などの意味を持ちます。ビジネスの世界では、法令遵守や社会規範の遵守といった意味で用いられることが一般的です。
そしてグローバルコンプライアンスとは、コンプライアンスの概念をグローバル規模に拡大したものになります。海外に子会社や関連会社を持つグローバル企業は、国内のコンプライアンス対応だけでなく、グローバルコンプライアンスへの対応も必要です。
グローバルコンプライアンスで想定されるリスクには、国内の一般的なコンプライアンスと同様に以下のようなものが考えられます。
グローバルに事業展開を行う企業は、国内の本社・支社に加えて、海外子会社や関連会社の事業活動も適切に管理し、コンプライアンス違反を防止していくことが求められています。
なぜグローバルコンプライアンスは重要なのか
法令や社会規範に違反した場合、多額の賠償金を求められることがあります。また、社会的信用の失墜などを引き起こすことにもなるため、コンプライアンスを徹底することは、すべての企業にとって不可欠です。
法令や社会規範に違反した際の罰則は国や地域によって異なるものの、どの国や地域においても企業への影響は大きいものとなるでしょう。
コンプライアンス違反が明らかになった場合、グローバル事業からの撤退や海外子会社の閉鎖、国内本社への責任追及といった問題につながるおそれがあるため、グローバルコンプライアンスに対応していくことは非常に重要です。
さらに昨今、グローバルコンプライアンスは、国際的な規制強化や国際標準の進化などに伴って複雑化しています。たとえば近年のトレンドとして、取引先のコンプライアンス管理まで徹底するサードパーティマネジメントやテロ資金供与対策、暗号資産も含めたマネーロンダリング防止などが挙げられます。
コンプライアンス違反による社会的制裁やビジネス上の制限を避けるためには、大手企業・中小企業などの企業規模に関わらず、これらの変わりゆくルールにも対応し続けていくことが求められます。
グローバルコンプライアンスにおける主な課題
ここでは、グローバルコンプライアンスにおける主な課題として、以下の点について解説していきます。
各海外拠点の事業活動の実態を把握することが難しい
国内の本社や事業拠点とは異なり、海外の各子会社や関連会社は地理的に離れているため、事業活動の実態を直接確認することが困難です。
コスト削減やコロナ禍以降の対策の一つとして現地の駐在員数を減らす企業も多く、日本から大人数の従業員を派遣することは容易ではありません。各海外拠点の事業活動に関する情報を収集し、海外現地法人の従業員を国内本社からコントロールすることは現実的ではありません。たとえ、コンプライアンス違反の兆候があっても迅速に検知することは困難でしょう。
また、それぞれの国や地域によって法令や⾔語、商習慣などが異なるため、各海外拠点の事業活動が法規制などに沿っているかを十分に把握することが難しい側面もあります。
国内本社と海外の各子会社との役割分担の線引きが難しい
海外の各子会社や関連会社にコンプライアンス対応を一任すると、現地業務の負担が増し、コンプライアンスの管理に十分に手が回らずに、コンプライアンス違反が生じるリスクが懸念されます。
コンプライアンス対応に優先的に現地の工数を割く場合、業務推進が鈍化し、海外市場での売上低下などにつながるおそれもあります。
一方で、国内本社がグローバルなコンプライアンスのルール制定や管理を一括して行う場合、各地域の事情に即していないマネジメントとなり、効果的に機能しなくなるリスクがあります。
各海外拠点の法制度や商習慣などに考慮しながら、現地のコンプライアンス業務を遂行するためには、国内本社と海外子会社との間で適切な役割分担が求められるのです。
コンプライアンス対策を制定・実施した後の効果を確認しにくい
国内本社でコンプライアンスへの対応策を制定・実施し、それぞれの国や地域へ展開した場合、各海外拠点でどの程度の効果が表れているかを確認することは容易ではありません。
また、国内本社で制定したコンプライアンスへの対応策が必ずしも各海外拠点の実態に即しているとは限らず、国内本社側が決めた対応策に、海外現地法人の従業員が従わないおそれもあります。
このような相違が生じることで、海外現地法人側が国内本社側へ不信感を抱える要因になる可能性があります。
どの程度のコンプライアンス水準を目指すべきか分からない
それぞれの国や地域の法規制や商習慣に沿ったコンプライアンス対応を海外拠点ごとに行うことが理想的ではあるものの、すべての国や地域のルールを把握して対応策を制定し、各海外拠点で完璧に遂行することは現実的には困難です。
また、国や地域によってコンプライアンスへの意識や環境は異なるため、すべての国や地域に対して一律にコンプライアンス水準を規定しても日々の運用が機能しないことが懸念されるでしょう。
画一的なルール・水準を設定してもうまく回らないおそれがあるため、それぞれの国や地域の従業員の意見も聞きながらリスクの早期発見方法を見出すことが重要です。
グローバルコンプライアンスに対応していくうえで重要なポイント
グローバルコンプライアンスに対応していくうえでは、以下に挙げるポイントを押さえることが重要となります。
グローバルコンプライアンスポリシーの策定
海外に子会社や関連会社を持つグローバル企業は、グループ共通基盤となるコンプライアンスポリシーを策定し、ガバナンスを効かせた経営が求められます。
コンプライアンスポリシーを策定する際は、各海外拠点を含めた現場の意見も吸い上げながら、以下のような事項を定めていくことが必要です。
なお、コンプライアンスポリシーを策定するにあたっては、大きく分けて以下の2つのフレームワークが考えられます。
- グローバルコンプライアンスポリシーの規程は必要最低限にとどめ、詳細な規定は各海外拠点ごとに制定する
- グループ全体でグローバルコンプライアンスポリシーを細かく取り決め、各海外拠点は統一されたポリシーに準拠する
企業の事業特性やビジネス環境などを考慮しながら、1.と2.のバランスを図っていくことが大切です。
社内体制の強化
前項の主な課題で触れたように、海外子会社にコンプライアンス対応を一任する場合、負担が増加し、現場業務やコンプライアンス管理がうまく回らなくなるおそれがあります。
海外子会社の負荷を軽減するためには、国内本社側でコンプライアンス推進組織を設置し、海外拠点ごとに担当を決めるなどして管理体制を強化していくことが求められるでしょう。
また、社内でコンプライアンスに対する体制を強化するためには、従業員へのトレーニングや研修も有効な手段です。たとえば、他社のコンプライアンス違反事例や社会的制裁の内容などについてe-ラーニングを通じて学習することで、コンプライアンスに対する各従業員の意識向上、不正を未然に防止する組織文化の醸成を図ることができるでしょう。
効果的なリスク管理を行うためのシステム構築
各海外拠点を含めて効果的なリスク管理を行ううえでは、各海外拠点の会計データや生産データ、販売データ、人事データなどを国内本社側でタイムリーに把握できる仕組みが求められます。
このようにグローバル規模で業務プロセスの管理や効率化、データの一元管理を行う場合、それぞれの事業拠点間でデータ連携を行えるシステムが必要となります。効果的なシステム構築の手段としては2層ERPなどが挙げられるでしょう。
ERPとは「エンタープライズ・リソース・プランニング(Enterprise Resource Planning)」の略であり、企業活動において必要な経営リソースであるヒト・モノ・カネ・情報を適切に分配し、有効活用する考え方や計画、および統合基幹システムを指します。ERPを活用することで、事業活動で生じる会計データや生産データ、販売データ、人事データなどの重要なデータを一元管理することが可能です。
そして2層ERPとは、国内本社でコアERP、各海外拠点でサブERPを導入する仕組みです。
企業のグローバル展開に伴い、業務プロセスとデータ管理の複雑さは増しており、異なる国や地域で事業を展開する場合、さまざまな言語、通貨、法規制などに対応する必要があります。各海外拠点のビジネス要件や法規制に合わせたサブERPを導入することにより、ローカルの要望やニーズに対応しながら、グローバル規模でデータを一元的に管理することが可能です。
2層ERPにより、各拠点間のデータ連携を実現しつつ、国内・海外それぞれの事業特性や規模に合ったシステムの構築・導入ができるようになります。
参考記事
- ERPとは?ERPと基幹システムとの違い・導入形態と導入の流れを解説 ERPとは、企業の基幹業務の統合化を図り、企業のあらゆる業務プロセスを一元的に管理するためのシステムです。ERPを導入することで、業務の効率化やコスト削減といったメリットを得られます。本コラムでは、ERPパッケージについてまとめ、導入を実現するためのポイントを分かりやすく解説します。
リスクアセスメントとモニタリングの強化
コンプライアンス違反を未然に防止するためには、各海外拠点のリスクアセスメントとモニタリングの強化も大事なポイントです。リスクアセスメントにおいては、まず各海外拠点の管理部門や従業員などに対してアンケートを実施し、事業活動や就業に関するデータを収集します。
そして収集したデータを分析し、コンプライアンスの種類や拠点などの切り口でリスクを整理したうえで、リスクの重要性や緊急性を評価します。アンケートを行う際は、従業員の負担とならないよう、選択式の回答を用いるなどの工夫が求められます。また、日本語だけでなく各海外拠点の言語に翻訳して行います。
モニタリングにおいては、たとえばリスクの重要性や緊急性が高いと判断された拠点を中心に、国内本社と海外拠点をつないだWeb会議を定期的に実施するなどの対策が有効となるでしょう。
外部機関や人事評価制度、通報制度の活用
自社のコンプライアンス状況について、外部の専門機関による監査を取り入れることで、自社内だけでは検知できないリスクや問題を抽出することが可能です。
外部の力を活用することをきっかけに、新たな対策案の検討・実施につながり、内部監査機能の強化を図ることもできます。また、コンプライアンスへの取り組みを各海外拠点や従業員の人事評価指標として組み込むことで、コンプライアンスへのモチベーション向上が期待できます。
他にも、グローバル内部通報の仕組みを活用し、コンプライアンス上の問題が生じている現場から直接本社へ通報できる制度を導入することは効果的です。グローバル内部通報制度により、各海外拠点の現場の実態を正しく掴むことができ、不正やコンプライアンス違反の早期発見につながるでしょう。
まとめ
グローバルコンプライアンスとは、国内の事業拠点だけでなく海外子会社や関連会社も含めて法令・社会規範などを遵守する考え方や取り組みのことです。コンプライアンス違反によって、グローバル事業からの撤退や海外子会社の閉鎖、国内本社への責任追及などの問題に発展しかねないため、グローバルコンプライアンスに対応していくことは企業にとって非常に重要となります。
グローバルコンプライアンスにおいては、各海外拠点の事業活動の実態を把握しにくい点や役割分担が難しい点などが課題として挙げられます。そのため、自社の事業特性やビジネス環境に即した形でグローバルコンプライアンスポリシーを策定し、コンプライアンス強化を図るための社内体制の整備がポイントとなるでしょう。
また、効果的なリスク管理を行うためには、各海外拠点の事業データをタイムリーに集約するためのシステム構築やリスクアセスメント・モニタリングの強化、外部監査、グローバル内部通報制度の活用などが有効な手段となります。
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