生産管理とは?需要情報に基づく生産企画から納品まで、計画、在庫、工程管理を最適化する方法を具体的に解説
需要情報に基づく生産計画の策定、製品の生産、客先への納品といった製造に関する一連の業務を管理するのが生産管理の仕事です。そのため、生産管理は、ものづくりを担う製造業にとって、非常に重要な業務と言えるでしょう。
今回のコラムでは、生産管理がどういった業務なのかについて説明します。さらに、現在の生産管理が抱える課題と適切な生産管理を実現する方法についても、分かりやすく紹介します。
INDEX
生産管理とは
生産管理の概要について
生産管理とは、製造業の企業において、生産計画に基づいて製品を製造するための管理に関する業務全般を指す言葉です。
生産管理では、需要情報をもとに生産計画を立案し、購買計画を作成して原材料の調達を行います。製造ラインの設備の確保をはじめ、作業員の配置、資材の供給、生産活動、さらには品質管理など、それぞれの業務を適切に管理していかなければなりません。
コストやスケジュール、現場の負荷や在庫調整、クレーム対応までの非常に幅広い業務を生産に関する全ての工程を把握した上で、生産管理が担います。複数の部署をまたがって管理することが必要で、とても重要かつ難易度の高い業務と言えるでしょう。
そのため、多くの製造業では、専門の生産管理部門が、生産全体を統制する役割を担っています。
広義の生産管理と狭義の生産管理の違いについて
生産管理という言葉を用いる際には、2通りの使い方をされることがあるので注意が必要になります。
1つは、計画立案、製造、客先への出荷と生産全体に関わる管理を示す際に生産管理が用いられるケースです。一方、生産管理という言葉が製造工程の管理のみを指すケースもあります。
両者を区別するために、前者を広義の生産管理、後者を狭義の生産管理と呼ぶこともあるようです。
この2つを混同してしまうと、スコープの認識に齟齬がでて混乱する原因になってしまいます。そのため、生産管理という言葉がどちらの意味で用いられているか確認しておくことが重要です。
本稿においては、単に生産管理と呼ぶ際は、広義の生産管理を指すこととして記事を執筆しています。
生産管理の目的とは
従来の生産管理の目的
伝統的な生産管理の目的は、「品質の良いモノを(Quality)、原価を抑えて(Cost)、短納期でつくる(Delivery)」ことを実践し、自社製品の競争力を高めることでした。
質の高い商品を安いコストで納期を守って顧客に届けることで、継続的に収益を上げることができます。他社に対する競争力と顧客への満足度を高めるために、QCDの観点で生産に関するさまざまな業務を適切に管理していくことが必要です。
高度化する生産管理の目的
現在では、従来の少品種大量生産が多品種少量生産に移り変わっており、生産がより複雑になっています。
また、感染症や戦争などのグローバル規模の事象に起因する、サプライチェーンの激しい変動も考慮しなければなりません。そのため、伝統的なQCD管理に加え、より高度な管理が求められるようになってきています。
まず、サプライチェーン全体を考慮した意思決定の機能が生産管理に求められます。変化の激しい世界では、製造のみではなく、販売や流通などサプライチェーン全体を考慮した上での意思決定が必要です。例えば、市場の需要が増えているにもかかわらず、製造工程で過度な品質を求めて生産開始が遅れてはビジネスチャンスを逃してしまいます。
また、利益向上においても生産管理は今まで以上の役割を果たさなければなりません。従来の少品種大量生産の世界では、稼働率や歩留まりなどの数量ベースの指標を追いかけるだけで十分でした。
しかし、多品種少量生産の世界では、利益を加味した金額ベースの管理が必要になります。このように、近年では、全体最適な意思決定と利益への貢献が生産管理に求められるようになっています。
生産管理の主な業務内容
生産管理には、どんな業務があるのか、このセクションで見ていきましょう。
需要管理(受注管理・需要予測)
生産計画を立てるために必要な、需要情報を管理する業務です。
従来は、需要に基づかない「プッシュ型」と呼ばれるサプライチェーンモデルが主流でしたが、近年では実需に基づく「プル型」が主流になりつつあります。そのため、市場における自社製品の需要を分析し、必要な生産量を見極めなければなりません。
見込み生産の企業であれば、高い精度の需要予測が大切です。需要が供給を上回ってしまっては、欠品が発生しますし、需要が供給を下回っていては過剰在庫や無駄な設備投資につながります。そのため、自社で持つ過去の販売データや外部情報などを分析し、なるべく正確に需要を予測することが必要です。
また、事前に顧客から内示や受注をもらえる企業であっても、それらの確定した情報を管理した上で、需要予測も行うことでより正確な生産計画を立てることができます。
生産計画
需要予測に基づき、生産に必要な資材の量や設備、人員の配置、生産ラインの立ち上げに必要な準備期間や生産にかかる時間など、生産に関するあらゆる情報を整理して、生産計画を策定します。
生産計画を立てる際には、設備や人員などの生産能力をどれだけ準備できるかという能力観点と、いつ何をどれだけ作るかという供給観点の2つを考慮しなければなりません。
また、生産計画立案は、月次・週次・日次といった順番で、最初に大まかに作ってから徐々に細かい粒度に落とし込みます。計画の単位が細かくなるにつれて、計画立案のサイクル・対象製品の管理粒度も細かくなり、より現場レベルに近い計画が作成されるのです。
調達・購買
生産計画の策定後に行われるのが、調達・購買計画です。
もし、資材が不足すれば生産がストップしてしまいますし、逆に資材を仕入れすぎると、過剰在庫によりキャッシュフローに悪影響が生じます。したがって、調達・購買は、生産計画に沿って実施することが重要です。仮に、生産計画に変更が生じた場合は、すぐに調達や購買計画に、その変更を反映しなければなりません。
また、調達制約の厳しい資材については、需要情報に基づいてサプライヤに対して事前に枠取りし、必要量を確保しておくことが重要になります。
加えて、近年では、購買領域の業務について、サプライヤを探し出して契約を結ぶS2C(Source to Contract)と商品を発注し支払いを行うP2P(Procure to Pay)の2領域に分ける考え方が浸透中です。
定型業務になるP2P領域については自動化や外注を行い、S2C領域にリソースを投入することが求められています。
製造管理・工程管理
生産計画に基づいて製造現場で実行する作業を管理するのが製造管理です。QCDを高い基準で満たすために、生産プロセスをコントロールしていかなければなりません。
そのため、指図に従って製造し、進捗を管理していくことが求められます。
また、作業のスタンダード化を進め、誰もがミスなく計画通りに製造できるようにすることも大切です。
加えて、顧客の事情に合わせて、優先的に製品を納入する必要が生じたり、重要顧客から急な案件を依頼されたりして、当初の計画を変更しなければならない可能性もあります。
このような不測の事態にも柔軟に対応しつつ、生産工程を管理していくことが必要です。
品質管理
顧客満足度を高めるために、品質要求を満たしていることを確認する品質管理も不可欠です。
資材、仕掛品、完成品など、品質管理が必要な品目は多岐にわたりますが、これら全ての品質を確認していかなければなりません。また、資材の受入、生産工程、販売後のサポートやクレーム対応など幅広い領域が品質管理の対象です。
品質管理には、工程を正常に保つための工程管理、検査を行って品質を保証する品質検証、品質問題の解決を目指す品質改善の3つが含まれます。
また、トラブル発生時に備え、シリアルナンバーやロットナンバー、各種伝票番号などを紐付けるトレーサビリティの管理も重要です。
在庫管理
在庫管理は、完成品・半製品・原材料などの各種在庫が、どこに、何個保管されているかを管理し、生産・販売に対して適切に供給する業務を指します。在庫管理のカバーする領域は非常に広いのが特徴です。
例えば、倉庫への在庫の入出庫などの時系列の管理、滞留在庫や不良在庫の廃棄、棚卸しなど多岐に渡ります。適正に在庫を保つことは、保有コストの削減や、企業のキャッシュフロー向上につながるので非常に重要です。
また、在庫を必要なタイミングで供給することは、販売のサポートにもつながります。さらに、企業が保持する資産を適切に把握しておくことは、コンプライアンスの観点でも大切です。
このように、製造業の企業を運営する上で、在庫管理は切っても切り離せない重要な役割を担っています。
原価管理
原価管理とは、事前に設定した指標となる標準原価と実際にかかった実際原価を比較して問題点を分析して改善することで、利益向上につなげることです。予定と実績を比べて統制をとることと、分析結果をもとにコスト削減につなげるという2つの目的があります。
原価管理で管理対象となる原価は、製造原価です。
製造原価には、材料費・労務費・経費があり、それぞれについて生産に直接関わった直接費と、間接的に要した間接費に分かれます。間接費については、一定の基準に基づいた配賦が必要です。
企業の利益向上につなげるためには、適切な原価管理ルールの設定と、精度の高い実績取得が重要になります。
外注管理
外注とは、生産の一部の工程あるいは全ての工程について、自社で製造を行わずに、外部業者に依頼することです。近年では、人件費削減や業務効率化のために外注を活用する企業も増えています。そのため、外注管理も生産管理の重要な要素の1つと言えるでしょう。
外注であれば、仕事を別の企業に依頼できるので楽ができると感じる方もいるかもしれません。しかし、外注先の選定や契約、作業進捗の管理などさまざまな業務が発生するのが現状です。中には、部材をどのように支給するか、完成品の品質をどのように保証するかなどの難易度や複雑性の高い業務も発生しています。
そのため、明確なルール設定や密なコミュニケーションが外注管理では大切です。
企業が抱える生産管理の課題
ビジネス環境の変化に伴い、生産管理が直面している課題について本セクションで詳しく解説していきます。
脆弱な情報管理
社内の情報が整理されていないことが、生産管理の抱える課題の1つです。
これまでにも、生産管理の情報管理に役立つシステムの導入は進められてきました。
しかし、製造部門に閉じていたり、物流部門に閉じていたり、他部署との連携を想定していない個別最適を志向したシステムが大半でした。
また、同じ部署であっても同一企業の他事業グループとは全く異なるシステムが入っており、全社的な標準化につながっていないケースもありました。このような情報が分断した状態では、部署間や他の事業所と連携できず非効率的です。
さらに、情報が整理されていないことは、適切な原価管理ができない、データに基づく意思決定が難しくKKD(勘・経験・度胸)に頼ってしまうなどの課題にもつながってしまいます。
そのため、企業全体の視点に立った横断的な情報共有に向けた仕組み作りが必要です。
環境変化スピードへの対応
環境変化スピードへの対応も生産管理の課題と言えるでしょう。
サプライチェーンは、グローバル化によって複雑化し、変化も激しくなってきています。自然災害はもちろんのこと、感染症や戦争などあらゆる変化に対応しなければなりません。また、近年では人権問題や環境問題への関心の高まりから、特定の国や地域との取引が突然難しくなるといったケースも発生しています。このような変化の激しいサプライチェーンに対応するためには、迅速な意思決定が必要です。
しかし、従来の生産管理の運用では情報をリアルタイムに手に入れることが難しくなっています。
例えば、在庫情報を手に入れるためには、各拠点の生産管理が伝言ゲームのようにメールベースで情報を連携して集めなければならないといったケースも少なくありません。
そのため、情報をリアルタイムで一元的に管理できる仕組み作りが必要です。
人手不足への対応
人手不足も日本の製造業・生産管理の抱える大きな問題点です。
日本は少子高齢化に伴い、労働力人口が減少しているため、国内企業はどこも人材確保が困難になっています。特に、製造業に求められる技能人材の不足が深刻な問題です。
これまでの日本の製造業はボトムアップ型で、現場を通じて技術を学ぶという職人の世界でした。一時期はカイゼンなどが注目を浴びることもありましたが、業務が属人化し、キーパーソンに依存してしまうという問題を抱える結果となっています。ただでさえ人手不足であるにもかかわらず、新しく人を雇って育てようにも教育に時間がかけなければなりません。
そのため、社員間で情報を共有し、誰でも簡単に作業できるようにするためのITツールの利活用が求められています。
生産管理業務に欠かせない「ERP」の活用
生産管理業務を適切に行うためには、先ほど挙げた課題を解決する仕組みが必要です。
また、生産現場が完璧に管理されていたとしても、流通や販売プロセスに不備があれば、その製品の競争力に悪い影響を与えるでしょう。
品質や納期を守り、生産コストを下げ、経営やビジネス資産の最適化を実現することが重要です。そのためには、経営と生産管理の一体化の実現が必要で、それを可能にするのがERPです。
ERPとは、企業全体の資源「人材、機材、資金、情報」を一元管理する仕組みです。これにより、経営状況の可視化と意思決定の迅速化、部門間での情報共有と業務連携の強化などを実現します。現代のビジネスには、このような情報を、マーケティングや流通施策にまで活用できるようなERPが求められています。
例えば、SAP社が提供する「SAP S/4HANA」は、サプライヤーネットワークや製造現場からのリアルタイム情報に基づいて計画を調整するなど、リアルタイムの在庫状況や製造・購買の進捗を、生産計画に反映することが可能です。
また、情報が整理されていないことは、適切な原価管理ができない、データに基づく意思決定が難しくKKD(勘・経験・度胸)に頼ってしまうなどの課題にもつながってしまいます。
このようなソリューションを導入し活用することで、生産と経営が一体化した、より高度な生産管理を実現しましょう。
参考記事
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