ERPで原価管理を行うメリットとは?原価管理システムとの違いと事例を交えて分かりやすくご紹介
企業経営において原価計算は、期間損益算定のために製品原価を集計、算出する業務プロセスです。
正確な財務諸表を作成するためには不可欠です。一方で、製品原価データを分析し、原価低減を実現するためには原価管理が必要です。
原価管理を行うと、標準原価の維持や原価の低減などさまざまなメリットを享受できます。また、原価管理をスムーズかつ効率的に行うためには原価管理システムの導入がおすすめです。
今回は、原価管理システムの選定ポイントや企業のあらゆる資源と原価管理を連携できるERPについて、解説します。
INDEX
原価とは
「原価」とは、一つの製品を製造し、サービスを提供するにあたり、そこにかかった材料費や人件費及び販管費などを指します。当然、原価が高いほど利益は下がり、原価が低いほど利益は上がります。
ただし、原価がどのラインにあれば十分な利益を確保できるのかは事業ごとに異なってきます。そのため、「標準原価」を管理し、それを維持することで原価の適正な値を決定します。
標準原価から低い原価で製品やサービスを提供すれば、収益が上がることになります。標準原価を維持しつつ原価低減を目指すことに原価管理を行う意義があります。
原価管理とは
財務省の定義によると、「原価管理」とは原価の標準を設定してこれを指示し、原価の実際の発生額を計算記録し、これを標準と比較してその差異の原因を分析し、これに関する資料を経営管理者に報告し、原価能率を増進する措置を講ずることとされています。
つまり、収益確保のためのボーダーラインである原価基準を設定し、それに応じた販売計画・生産計画・購買計画を立てます。
さらに、実際に生じた原価と標準原価の差額を記録し、差異分析を行うことで適切な標準原価の設定と原価低減を目指すという意味です。
このことから原価管理には、「標準原価の維持」と「原価の低減」の2つの目的があると考えられます。
原価管理システムとは
原価管理を効率よく行うためには、原価管理システムの導入がおすすめです。原価管理システムの特徴やできることを解説します。
原価管理システムとは
原価管理システムとは、業務における原価を計算・管理できるシステムです。
原価のシミュレーションや分析によって、原価の維持や低減および利益の最大化を図ることを目的としています。
原価管理システムでできること
原価計算
原価管理では、製品を提供するためにかかった材料費や加工費、人件費、労務費などの原価を計算する必要があります。原価の計算は、適切な価格設定を行い、利益向上を図るために欠かせません。
原価管理システムを使用すれば、さまざまな計算方法にて原価を算出でき、コストの削減につながります。必要な機器やソフトウェアはもちろん、社員の給与なども登録しておくことが可能です。
以下は、原価管理システムで一般的に対応している原価計算の方法です。
実際に発生した原価を計算する方法
目安となる費用を設定し、その費用を基に原価を計算する方法
個別の製品ごとに原価を計算する方法
特定の期間内にかかった原価を計算する方法
製造で発生した費用を全て原価として計算する方法
製造で発生した費用を部分的に原価として計算する方法
部分原価計算の1つで、変動費のみを計算して損益分岐点の算出に使う方法
原価差異分析
目標の原価を達成するためには、目標とする原価と実際の原価を比較し、分析することが重要です。
原価差異の分析によって、原価上の無駄が明確となり、利益の向上につながります。
原価管理システムを使用すると、目標とする原価と実際の原価の差異を簡単に分析できるため、改善策が見つかりやすくなります。
損益計算
来期の予算や方針を決める際は、今季の損益を計算する必要があります。
コスト削減を成功させるためには、損益計算を行い、適切なデータからどのコストを削減するかを考えることが重要です。
原価管理システムを使用して製品や部門ごとの損益を計算すると、どの製品や部門で利益が少ないのかを把握でき、予算の編成に役立ちます。
配賦計算
部署や製品などを横断して発生する費用について、部門ごとや製品ごとに配賦することで、より厳密に各部門や各製品の原価を把握できます。
原価管理システムを使用すると、あらかじめ設定したルールやパターンに沿った費用配分の計算が可能となります。
特に配賦基準が複数ある企業では、複数の配賦ルールやパターンを設定できる原価管理システムを選ぶことが重要です。
原価シミュレーション
原価の変動を予測することは、将来的なリスクの対応策を考えたり、今後の経営判断に役立てたりするのに効果的です。
原価管理システムでは、蓄積した原価や予算、利益などのデータからシミュレーションでき、早い段階でリスクや経営判断への対応が可能となります。新しいビジネスや計画の立案にも役立ちます。
システム連携
原価の計算には、経費精算システム、在庫管理システム、会計システムなどとの連携が必要です。原価管理システムを使用すれば、さまざまな原価計算に必要なシステムと連携できます。
複数のシステムにおけるデータの二重管理など、同じデータを入力する手間が省けるため、コストの削減と業務効率化につながります。
原価管理システム導入のメリットとは
原価管理システムを導入することで得られるメリットについて解説します。
経営判断の手助けとなる
原価管理システムを導入することで、会社の原価計算やシミュレーションをリアルタイムで確認できます。
経営判断の材料として使える情報を得られるため、経営判断の迅速化につながります。
原価管理システムで分析した正確な数値やデータなどの材料を、設備投資や新ビジネス、新サービスの立ち上げにおいて、定量的な指標として役立てることが可能です。
業務効率化につながる
Excelなどを用いた原価管理では、多くの時間を要します。計算ミスのリスクも高く、最終的な計算が合わないことも少なくありません。
業務システムと連携してデータを管理する原価管理システムでは、リアルタイムで計算でき、ヒューマンエラーも起きづらく、業務効率化を図れます。
無駄を把握できる
原価管理システムを活用して、適切な原価管理を行うことで、どの部門や製品、工程で無駄が発生しているかを把握できます。
コストの削減を積み重ねていけば、利益の最大化を実現できるでしょう。
人的コストの削減が可能
従業員が手動で行っていた原価や損益の計算を原価管理システムで行うことにより、人的コストを削減できます。
原価管理システムの導入コストは発生しますが、一度導入してしまえば長期間使用でき、総合的なコストは大幅に削減できるはずです。
原価変動のリスクへの対応が可能
材料の仕入れ価格や設備投資の価格高騰などにより、原価は変動するものです。
特に近年ではコロナ禍の影響で、半導体不足や工場の生産停止などによる物価上昇が起こり、原価は大きく変動しています。原価が変動すれば利益も変動し、企業の経営に影響を及ぼすおそれがあります。
原価管理を適切に行えば、リスクの回避は難しいものの、原価のシミュレーションにより対策を講じることが可能です。
原価管理システムの選定前に押さえておくべきポイントとは
自社に合った原価管理システムを選定し、導入を成功させるために押さえておきたいポイントを解説します。
自社の課題と原価管理システム導入の目的の明確化
自社の課題を洗い出し、原価管理システムを導入する目的を明確にすることで、失敗のリスクを抑えられるほか、導入後の運用がスムーズになります。
「課題を解決するためには何が必要か」、「原価管理システムの導入によって課題を解決できるのか」、「課題解決以外の目的は何か」を明確にしましょう。
検討した結果、自社の課題解決につながらない場合や、原価管理システム導入の目的が不明瞭である場合は、無駄なコストになるおそれが大きいため、システムの導入は見送ったほうが賢明です。
社内環境の整備
原価管理システム導入前には、原価管理システムの責任者、運用チーム、教育者などを選任し、運用体制を整備しておきましょう。
原価管理システムを導入しても社内の環境が整備されていないと、社員がうまく使いこなせず、無駄な労力とコストが発生します。
原価管理システムの仕組みや機能、システム化できる自社業務を従業員が理解し、システム導入後にスムーズに使いこなせるよう、社内環境を事前に整えることが重要です。
また、原価管理システムの運用方法に関する教育の実施も欠かせません。教育を行うことで、いち早くシステムを使いこなせる社員が増え、効率的な運用につながります。
信頼性の高いベンダーの選定
原価管理システムを導入するには、専門的な知識と多くの時間が必要です。
原価管理システムの導入経験がない自社の社員のみで導入を試みて、失敗してしまったケースは少なくありません。
そこで信頼性の高いベンダーに原価管理システムの導入を依頼すると、導入にかかる工数を削減できます。信頼性の高いベンダーであるかを見極めるためには、導入実績を確認するほか、複数のベンダーから提案や見積もりを取るのがおすすめです。
そして、依頼したベンダーとは長期間の付き合いになる可能性が高いため、十分な時間をかけて情報収集と比較を行いましょう。
原価管理システムの選定のポイントとは
原価管理システムを選定する際のポイントについて解説します。
自社のニーズに合った原価管理システムであるか
原価管理システムは、提供サービスや対象としている業種によって、使い勝手や機能が異なります。そのため、自社に必要な機能が揃っているかを確認することが大切です。
原価管理システムには、大きく分けて以下の3タイプがあります。
自社の業種やニーズに合わせて、最適なタイプの原価管理システムを選びましょう。
他のシステムとの連携は可能か
原価管理システムは、他のシステムとの連携が不可欠です。
連携によって、他システムの持つ原価関連のデータを管理できます。そのため、原価管理システムの選定においては、自社で使用している他システムとの連携が可能かどうかを確認しましょう。
連携ができないシステムがあった場合、データをcsvなどで出力し、その後に連携を行う。あるいは連携できないシステムのみ、手動でデータを移行する必要があります。
このような場合は、余計な手間や時間がかかってしまうため注意が必要です。
原価管理以外の機能は必要か
原価管理システムの一般的な機能は原価計算や損益計算ですが、発注管理や在庫管理など原価管理以外の機能が搭載されているシステムもあります。
もし他のシステムで発注管理や在庫管理を行っているのであれば、それらの機能を備えた原価管理システムを選ぶことで、データの一元管理が可能となり、業務効率化につながります。
システムの拡張性や柔軟性
会社の規模や事業が拡大した場合、原価管理システムの機能を増やしたり、使い勝手の良い機能へのカスタマイズが必要になったりする可能性があります。
もし機能の追加やカスタマイズができなければ、多額のコストをかけて新しいシステムを導入する、もしくは機能の追加やカスタマイズを諦めるしかありません。
会社の将来的な戦略に対応できるよう、拡張性や柔軟性の高い原価管理システムを選定することをおすすめします。
ERPで原価管理で行うとは
多くの企業では、ERPを活用して原価管理システムを導入しています。ERPとは、「Enterprise Resource Planning」の略で、企業の持つ資源を統合的に管理できるシステムです。
原価管理システムを単体で導入することも可能ですが、企業のあらゆる資源を1つひとつ連携して管理しなければならず、多くの手間とコストがかかります。ERPを導入すれば、企業の持つ「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」といったあらゆる資源を統合的に管理できるため管理しやすく、コストも抑えられるでしょう。
また、現在提供されている多くのERPには、組織内の情報を一元的に管理するだけではなく、在庫や製造の会計を含めて、原価管理を総合的に管理するための様々な機能が備わっています。この機能により、複雑かつ負担の大きな原価管理業務を効率化することが可能です。
「原価管理」は一見シンプルな業務ですが、非常に複雑なプロセスを持っています。
その上、極力誤差が生じないように原価を求めなければならないため、負担も大きいのです。これを、人力で行うには限界があります。
したがって、ERPのような統合的なシステム環境があることで原価管理は圧倒的に効率化されます。さらにすべての業務システムで原価情報を共有し、見える化を図ることが可能になります。
そのため、原価管理システムを検討する場合、原価管理システムを単体で導入するのではなく、原価管理システムが搭載されているERPの導入がおすすめです。
参考記事
- ERPとは?基幹システムとの違いや導入形態・メリットと導入の流れを解説 ERPパッケージとは、企業の基幹業務の統合化を図るERPを実現するソフトウェアです。ERPを導入することで、業務の効率化やコスト削減といったメリットを得られます。もちろんデメリットもあります。本コラムでは、ERPパッケージについてまとめ、導入を実現するためのポイントを分かりやすく解説します。
ERPで原価管理を行った事例
1950年代に創業した埼玉県にある製造メーカーは、国内外に10の生産拠点を有し、早くからグローバル展開を行っていました。2012年には、グループの海外売上比率が90%にまで迫るほどでしたが、当時はそれぞれの海外拠点が独自に開発したシステムやERPパッケージを使用していたため、拠点間での情報連携が大きな課題となっていました。
同社は、こうした課題を解決するためにIT環境を刷新することを決め、多言語・他通貨に対応した「SAP ERP」の導入を決定しました。同社は、クラウドサービスのAWS上に「SAP ERP」を導入することで、初期コストを抑えながら、将来の拡張性を備えた基幹システムを構築することに成功しました。
これまでは、担当者の勘や経験で生産量が決定され、過剰な在庫が生じることがありましたが、会計、販売、購買業務をリアルタイムで連携し、受注や受注予測、在庫、購買発注残のデータから独立所要計算(MRP)を実施し、それに基づいた見込み調達を行うことで、業務効率の向上と在庫の適正化を実現したのです。
また、「SAP ERP」の導入によりリアルタイムでの情報連携が実現したことで、原価管理の水準も改善しました。加えて、資金予測の精度やスピードが改善されたことで、資金繰りが効率化するという効果もありました。
各拠点で同じ基幹システムを利用することで、拠点間での取引きをより効率良く実施でき、また運用やメンテナンス費用が抑えられるというメリットもあります。
さらに、2018年11月には、「SAP ERP」とIIoT(Industrial IoT:製造業におけるIoT)用ソフトウェア「SAP Manufacturing Integration and Intelligence(MII)」(独SAP製)を連携させ、工場設備の稼働状況や異常値のリアルタイムな把握や、作業実績の自動登録を可能にし、スマートファクトリーを実現しています。
まさに、「SAP ERP」活用により、原価管理の効率化とコストの「見える化」によって、企業の経済活動に大きな影響を与え、さらなる成長へと導いた一例といえます。
参考記事
- SAPとは SAPは、「経営・業務の効率化」や「経営の意思決定の迅速化」を実現することを目的に、多くの企業で導入されているITソリューションです。このITソリューションにより、企業の経営資源である「人・モノ・金」の情報を一元で管理ができ、そして経営の可視化を実現できます。本コラムでは、SAPについて詳しく解説をしていきます。
まとめ
企業の利益を継続的に安定させるためには原価管理が重要です。
原価管理システムを活用することで、人的コストをかけずに、適切な原価計算や損益計算を実施できます。そして、原価管理システムが搭載されているERPを導入することで、原価管理以外の業務に必要な複数システムを一元管理できます。その結果、生産性向上や業務効率化が見込めるでしょう。
原価管理システムを導入する際は、他のシステムも1つに統合できるERPの導入をぜひ検討してみてください。
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