SAPとは
SAPは、「経営・業務の効率化」や「経営の意思決定の迅速化」を実現することを目的に、多くの企業で導入されているITソリューションです。このITソリューションにより、企業の経営資源である「ヒト・モノ・カネ」の情報を一元で管理ができ、そして経営の可視化を実現できます。
SAPユーザー企業であれば、ERP製品を提供しているベンダーの1つであると理解していることでしょう。今回は、あらためてSAPシステムについて整理し、ご紹介したいと思います。
INDEX
SAPとは
SAP以外にもOracle社やMicrosoft社などがERPシステムをリリースしていますが、数あるERP製品のなかでも、特にニーズが高いのがSAP(エスエーピー)です。
SAP社とは
SAPは、ドイツに本社を置くソフトウェアの大手ベンダーです。SAP社が提供するERPソフトウェアを指して使われることもあります。
SAP社は、1972年にERPパッケージ(統合業務パッケージ)ソフトのベンダーとして、ドイツのワルドルフで設立されました。世界で最初のERPであるSAP社の「SAP R/1」は、1973年のリリース以降、「SAP R/2」、「SAP R/3」と進化を続け、50年に渡って企業を支えてきました。
2015年には、インメモリ型の高速データベースシステムである「SAP HANA」をベースにした次世代ERPシステム「SAP S/4HANA」をリリースしています。
2004年以降、SAP R/3の後継として開発されてきた「SAP ERP」シリーズはECC 6.0までとなり、現在はSAP S/4HANAへのシステム移行が進められています。
ERPとは
ERPとは、「英:Enterprise Resource Planning」の頭文字をとった略語で、日本語では「企業資源計画」と訳されます。
「企業の全部門共通システム」と考えると分かりやすいと思います。ERPを活用することで、大きく2つの利点があります。
では、なぜSAP社のERPがここまで普及したのか、その理由について説明します。
SAP ERPが普及した背景とは
1980年代まで日本の企業情報システムの中心は、業務に最適化されたシステムでした。
しかし、1990年代前半に欧米で起こったBPR(Business Process Reengineering:業務プロセス改革)ブームがきっかけとなり、日本でも多くの企業がERPパッケージを本格的に採用しました。
同時に、1990年代はメインフレームからオープンシステムへの移行が一気に進み、「2000年問題」(2000年になるとコンピュータが誤作動すると予想されたこと。別名、Y2K問題)も重なって企業情報システムの刷新ニーズが高まった時期でした。
そこでSAP社の「SAP R/3」をはじめ、米PeopleSoftの「PeopleSoft」、米J.D.Edwardsの「OneWorld」、米Oracleの「Oracle Applications」、オランダBaanの「BaanERP」といった各種ERPパッケージ商品が、このような企業のシステムに対する刷新のニーズを的確にとらえ、1990年代には世界中で「第一次ERPブーム」と呼ばれるERPパッケージの導入ラッシュが起こりました。
このブームで、圧倒的に世界市場シェアを有したのがSAP社です。
参考記事
- ERPとは?基幹システムとの違いや導入形態・メリットと導入の流れを解説 ERPパッケージとは、企業の基幹業務の統合化を図るERPを実現するソフトウェアです。ERPを導入することで、業務の効率化やコスト削減といったメリットを得られます。もちろんデメリットもあります。本コラムでは、ERPパッケージについてまとめ、導入を実現するためのポイントを分かりやすく解説します。
全世界に広く普及したERPパッケージ「SAP R/3」
SAP R/3は、全世界で広く普及したERPパッケージとして知られています。SAP社が提供するERP「SAP R/3」が世界に広く普及した理由は大きく3つあります。
以下で詳しく説明します。
クライアントサーバ型のシステム構成
サーバ機能とクライアント機能をネットワーク上に分散して配置することで、負荷が少なくなり、短時間での処理が可能となりました。
また、クライアントとサーバで役割が分かれているため、障害発生時の原因究明も素早くできます。
Windows、UNIXなど複数プラットフォームもサポートしており、グローバル対応ソリューションとして世界中に新たな顧客を獲得しました。
自社の業務に合ったシステムを構築
自社の業務に合わせて、ソフトウェアに追加で独自に開発・導入できます。
その独自の開発を、SAP社独自のプログラミング言語であるABAP(Advanced Business Application Programming)で行います。
これにより、各国、業界による独特の商慣行に対応でき、各企業や部門にとって必要な機能を補うことが可能です。
業務分野別にまとめられた機能群(モジュール)
SAP社のERPパッケージは、業務分野別にまとめられたモジュールと呼ばれる機能群で構成されています。
多様な業界・業種に対応したテンプレートがあり、導入の際はそれらの機能を組み合わせて適切なシステムを構築できます。数あるSAP ERPモジュールの中で、よく利用されるものを以下で紹介します。
「FI」(財務会計)
決算書などの外部向け報告書の作成や、作成に必要となる固定資産や債務、債権管理などに関する情報の登録や処理などをサポートします。
「CO」(管理会計)
部門やプロジェクトなど社内の原価管理を目的としています。
費用や利益の収集と管理、予算との対比なども行えるため、部門ごとの収益性を把握することが可能です。
「SD」(販売管理)
販売管理に関わる機能を全般的にサポートします。販売・在庫・物流部門をリアルタイムな一元情報でつなぎ、業務を効率化します。
「MM」(調達・在庫管理)
倉庫構造を定義して、入庫や出庫をはじめ倉庫内での在庫の移動や、最小単位の棚番レベルで品目の保管管理を支援し、自動化・省力化を推進します。
「PP」(生産管理)
生産計画から製造指図、製造実績まで、生産プロセスにかかわる機能を提供します。
生産活動の改善や効率化の推進に貢献します。
参考記事
- SAP ERPのモジュールとは?代表的なモジュールの役割とその相関関係をご紹介 SAP社のERPパッケージは、モジュールと呼ばれる業務分野別にまとめられた機能群で構成されています。今回のコラムでは、SAP ERPの代表的なモジュールを例に、モジュールの役割や相互の関係について説明します。
次世代ERPパッケージ「SAP S/4HANA」
SAP S/4HANAは、インメモリデータベースSAP HANAをベースにした次世代ERPとして2015年にリリースされました。SAP R/3(SAP ERP)のサポート終了が発表され、現在ではSAP S/4HANAへの移行が進んでいます。
SAP S/4HANAは、近年注目を集めるAIに対応した機能が備わっていることが特徴です。機械学習や予測分析機能によって、商品の在庫消費予測や契約数量の予測もできます。
SAP R/3との違いは、大きく3つあります。
以下で詳しく説明します。
インメモリデータベースの導入
SAP R/3では、使用するデータベースを、Oracle社のOracle DatabaseやMicrosoft社のSQLServerなどからユーザーが選択できましたが、SAP S/4HANAで使用するデータベースは「SAP HANA」のみです。
「SAP HANA」は、インメモリデータベースで構築されており、データをSSDやHDDなどのストレージに書き込むのではなく、メインメモリに書き込みます。これにより、処理の高速化が実現します。
新たなユーザーインターフェース「SAP Fiori」の追加
SAP R/3では、SAP GUIというアプリケーションソフトを利用していましたが、SAP S/4HANAでは、「SAP Fiori」と呼ばれるインターフェースも利用できます。アプリケーションのインストールは不要で、タブレットやスマートフォンでの利用も可能です。
SAP Fioriでは、操作メニューがユーザーロールに紐づく表示に変更されており、操作性が向上しています。
クラウドへの対応
SAP R/3はオンプレミスでの提供でしたが、SAP S/4HANAではクラウドでの利用も可能となりました。クラウド対応の場合は、SAP S/4HANA Cloudと呼ばれます。
オンプレミスでは年単位で大規模なアップデートが行われていますが、SAP S/4HANA Cloudでは四半期ごとに更新されるバージョンアップを通じて、常に最新の状態を保つことが可能です。
また、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloudなどにも対応しているため、様々なクラウド環境で稼働するデータを統合し、データ活用のゲートウェイとして利用できます。
参考記事
- SAP S/4HANAとは? SAP S/4HANAとは、SAP社が提供する次世代のERP製品です。本コラムでは、SAP S/4HANAの概要をはじめ、その機能やメリットなどを詳しく解説します。
SAP社が展開する中堅・中小企業向けERP
SAP社は、中堅・中小企業および大企業の子会社、海外拠点などでの利用に適したERPも提供しています。
SAP Business ByDesign
SAP Business ByDesignは、会計管理、人事管理、購買管理、生産管理、販売管理などに対応しています。
2007年に発表されて以来、日本を含む世界117カ国で提供され、2018年時点で約3,700社の企業に導入されています。
SaaS型のERPサービスであり、従来のオンプレミス型のERPパッケージと比較して「導入までに要する期間が短い」、「初期導入コストを抑えることが可能」、「ユーザー数に応じたユーザーライセンス体系」という特徴があります。
SAP Business ByDesignは、初期コストを抑えて短期間で導入できることから、中堅・中小企業で多く利用されています。
SAP Business One
SAP Business Oneは、中堅・中小企業におけるビジネス活動の主要業務を、ワンシステムで網羅的に管理できるERPパッケージです。
カスタマイズを必要としない豊富な標準機能により、多くの国の言語・税制・商習慣に標準対応しています。短期間かつ低コストでシステム導入を可能とするとともに、中堅・中小企業の収益性向上と成長を強力に支援しています。
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SAP社が提供する周辺ソリューション
SAP社はERPだけでなく、業務アプリケーションなどのクラウド関連製品も多くリリースしています。以下、SAP社が提供するERP以外の周辺ソリューションを紹介します。
SAP Customer Experience :旧 SAP C/4HANA
SAP Customer Experienceは、クラウド型CRMソリューションです。
「SAP Customer Data Cloud」を土台に、マーケティングの「SAP Marketing Cloud」、コマースの「SAP Commerce Cloud」、セールスの「SAP Sales Cloud」、サービスの「SAP Service Cloud」と5つのクラウドサービスから構成されています。
SAP Ariba
SAP Aribaは、企業の購買業務を一貫してサポートする調達管理サービスです。
SAP Aribaが構築する連携ネットワークであるAriba Networkには、190カ国420万以上の企業が参加しています。Ariba Network上では取引先との連絡や、電子署名などが可能です。
SAP Concur
SAP Concurは、出張・経費管理に特化した経費生産管理システムです。
交通系ICカード、タクシー配車アプリ、QRコード決済アプリなどと連携して、経費精算を自動化する仕組みがあります。SAP Concurは、全世界で7,500万人以上に利用されています。
SAP SuccessFactors
SAP SuccessFactorsは、人材の登用・育成・管理サービスを提供するシステムです。
人材の獲得、配置、育成、評価、報酬など人事業務で発生する人材データを一貫して管理します。200以上の国と地域、全世界で1,200社以上の企業で利用されています。
SAP Fieldglass
SAP Fieldglassは、企業と人財をつなぐ「人財シェアリング」を実現するプラットフォームです。190の国と地域で利用されています。
まとめ
SAP社のERPソリューションは、「経営・業務の効率化」や「経営の意思決定の迅速化」を実現することを目的に、多くの企業で導入されています。
1973年のリリース以降、SAP社のERPは進化を続け、企業を支えてきました。現在では次世代ERPシステム「SAP S/4HANA」への移行が進んでいます。また、SaaS型アプリケーションだけでなく、SAP Cloud Platformでは、IaaSやPaaSの基盤も提供しています。
SAP社は「Intelligent Enterprise(インテリジェントエンタープライズ)」というコンセプトを提唱しています。これは、SAP社が提供する「SAP S/4HANA」を、企業のデジタルトランスフォーメーション(以下 DX)を実現するITソリューション群の中核をなす「デジタルコア」として、周辺システムをはじめ、機械学習プラットフォームやIoTと連携し、更なるデジタルデータの利活用を目指します。
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