中小企業のグローバル戦略とは?中小企業グローバル戦略の動向や課題を解説
中小企業の業況判断(DI)は、2020年4-6月期にリーマンショック時を下回る水準まで急激に悪化しました。持ち直しの動きも見られますが、依然として厳しい状況が続いています。
また、新型コロナウイルス感染症の拡大は、今なお多くの中小企業に影響を与えています。
今回のコラムでは日本の中小企業のグローバル戦略の動向や課題、そして課題解決に向けた解決策(ERPソリューションの活用)について解説します。
INDEX
日本の中小企業とは
中小企業基本法では、業種分類ごとに中小企業の定義が定められています。
中小企業の定義とは
製造業であれば、「資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人」。また、サービス業であれば、「資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人」が中小企業に分類されます。
ただし、上記はあくまでも原則であり、法人税法における中小企業軽減税率の適用範囲は資本金1億円以下の企業であるなど、法律や制度によって「中小企業」として扱われている範囲は異なります。
中小企業数の推移
中小企業庁の統計によれば、日本の中小企業の数は、2014年から2016年の間に55万7,000社から53万社に減少。小規模事業者も含めると、380万9,000社から357万8,000社へと減少しています。
一方、同期間の大企業数が、1万1,110社から1万1,157社とほぼ同数で推移しているのと比較すると中小企業の減少傾向が顕著です。
中小企業者数が減少している原因の一つが、経営者の高齢化です。
中小企業経営者の年齢のピークは、1995年の47歳から2015年には66歳にシフトしました。大企業と比べ、中小企業は事業継承やM&Aが困難であるとも言われており、こうした傾向が続けば今後も企業数の減少は続いていくと考えられます。
また、経営が難しくなっていることも中小企業数が減少している理由の1つといえます。
中小企業の経営課題として挙げられるのが、日本国内における消費の低迷です。
少子高齢化の影響により、日本は今後も人口減少が続くと予想されています。そのため、国内市場だけに頼っていては、需要減少は避けられません。
日本政策金融公庫が2019年〜2021年に実施した調査では、分野を問わずあらゆる中小企業が営業・販売力の強化に注力したいと考えているというデータが出ています。
売上の拡大に悩み、営業力の強化を課題とする中小企業が増加していることがわかります。
グローバル戦略とは何か?
グローバル戦略とは、国内市場に留まることなく、ビジネスの規模をグローバルに展開する戦略を指します。
現在の日本の人口は約1億人ですが、世界全体の人口は約80億人であり、マーケットの規模は巨大です。国内市場に留まるよりも大きなビジネスチャンスを手にすることができるため、海外展開を試みる国内企業も出てきています。
このように成長機会を求める企業が海外市場を目指すときに用いるのがグローバル戦略です。
グローバル戦略が必要な理由
ここからは、グローバル戦略が求められる理由について解説します。
市場拡大
日本市場は人口減少による縮小が問題視されていますが、世界規模でみると人口は増加傾向にあります。
また、日本のように市場が成熟しきっておらず厳しい競争がない国も多いため、国内だけで勝負するより海外にも目を向けたほうが、自社の商品やサービスの売上拡大が見込めます。
リスク分散
日本のような1つの国の市場だけを押さえていると、海外の競合企業との競争に負けると売上が悪化するリスクがあります。
例えば、日本で発達していたガラパゴス携帯は、海外から広がったスマートフォンに取って代わられてしまいました。
このような事態を避けるためにも、率先して海外展開を進めてビジネスを多角化することが重要です。
コスト削減
海外には、人件費が安い・税金が安い地域も多いです。
そのような国に対しては、日本国内で製品を作って輸出する代わりに、現地で生産して販売すれば、コスト削減につながります。
もちろん、賃金上昇率なども考慮する必要はありますが、コスト削減もグローバル戦略を取るメリットといえるでしょう。
グローバル戦略で用いられるマネジメント
グローバル戦略におけるマネジメントは、「バートレットとゴシャールの4類型」という方法が有名です。
この分類方法は、地域への適応度の高い/低いと、中央集権度の高い/低いから構成される4象限を用います。
マルチナショナル企業
地域への適応度が高く、中央集権度が低いのは「マルチナショナル企業」です。
地域ごとのニーズを反映させるために、拠点の独自性を強く持たせたマネジメントモデルといえます。
インターナショナル企業
地域への適応度が低く、中央集権度も低いのは「インターナショナル企業」です。
経営管理手法によって本社の管理を強めながらも、地域のニーズに対応するために各拠点の意思決定権も残したモデルです。
グローバル企業
地域への適応度が低く、中央集権度が高いのは「グローバル企業」です。
世界の市場を1つととらえ、標準化した商品を展開するモデルであり、本社の権限が非常に強くなっています。
トランスナショナル企業
地域への適応度が高く、中央集権度も高いのは「トランスナショナル企業」です。
中央集権度とローカル適応度の両方を高めたモデルです。コントロールが難しい一方で、本社と各拠点の効率的な連携を実現できる可能性が高く、海外展開を目指す際に最も理想的とされています。
グローバル戦略の難しさ
グローバル戦略にはこれまでの知見が蓄積され、一定のフレームワークも確立されつつあります。そのような状況でなぜグローバル戦略を取ることが難しいのか見ていきましょう。
グローバル市場の理解
まず、日本と異なる市場を理解することの難しさが挙げられます。
海外の市場では新たな顧客や競合企業と接するため、国内市場で蓄積してきた実績が通用しないケースも多いです。また、異なる文化や習慣へのローカライズ対応が必要になることもあります。
コンプライアンス対策
グローバル戦略にはコンプライアンス対策も重要です。
日本でビジネスを行っているとあまり意識しないかもしれませんが、海外の子会社での違法行為に悩まされる企業は少なくありません。
そのため、違法行為をどのように見つけて取り締まっていくかの対策が求められます。
グローバル人材の獲得
人材獲得も、グローバル戦略の難しいポイントです。
日本から社内の人材を海外に送る際には、渡航費や滞在費などの費用がかかるうえ、語学などのトレーニングが必要となります。
一方、現地で人材を採用しても日本以上に流動的な雇用の国が多く、すぐに辞めてしまうおそれがあります。
グローバル戦略の成功事例
ここからは、中小企業が実施したグローバル戦略の事例について紹介します。経営戦略を工夫することで、グローバル展開に成功している中小企業も少なくありません。
事例1. メイクブラシ(化粧筆)の製造・販売を行う広島県の中小企業
メイクブラシの製造・販売を行っている広島県のある企業は、熟練した技術を持つ職人によって長年作られてきた商品を販売していましたが、海外産の安価な商品との厳しい競争にさらされていました。
そこで、海外に向けたブランディングとプロモーションを強化し、自社製品のファン獲得に力を入れました。SNSの活用や海外での賞の獲得などが具体的な活動です。
さらに公的な支援制度を活用することで、ヨーロッパやアジアなど17カ国への輸出を実現させました。2019年からは越境ECを利用した直販も行っています。
事例2. 消臭液や土壌改良材を扱う北海道の中小企業
北海道を拠点に、牛のし尿を原料とした消臭液や肥料などの製品・販売しているこの企業は、自社のブランドコンセプトの見直しを行い、顧客に届ける価値を明確化したうえで、社内外への情報発信やパッケージリニューアルを行いました。特に力を入れたのは海外展開です。
農業の盛んなブラジルや東南アジアの国々とコミュニケーションをとって現地の農業が抱えている課題を把握し、連携強化に努めました。
その結果、海外5カ国への販路拡大、利益率の向上を実現しました。
日本の中小企業におけるグローバル化
国内では労働人口の減少や高齢化に伴う内需の減少が予想される中、中小企業が経済発展の著しいアジアなどの新興国における需要の取り込みをねらい、積極的に海外展開を図っています。
IT技術の進歩や普及、インフラの整備などにより、現地の販売先や提携先とのやりとりが容易となり、従来よりも海外進出がしやすくなったことも、中小企業にとっては追い風といえます。
そして、海外では国内よりも人件費や原材料費を抑えられ、新興国が導入している外資優遇制度による節税効果を得られることも、海外展開のメリットです。
1997年には、中小企業の16.4%が直接輸出企業でしたが、2017年には21.7%に上昇しています。2020年前半には、新型コロナウイルス感染症の拡大により、中国からの部品調達が停滞するなど、海外との取引は大きな影響を受けました。
しかし、長期的にみれば、日本の中小企業の生き残りにとって海外展開は必要なことだといえます。
日本の中小企業が抱える課題
このような中小企業がかかえる課題として、上述した高齢化や国内市場における需要の減少の他、生産性の低さが挙げられます。
そこで、2020年7月に閣議決定された成長戦略では、中小企業の生産性の向上率が新たなKPIとして示され、この目標の実現に向けて様々な支援が実施されています。
しかし、近年は改善傾向にあるものの、長期で見れば、中小企業の労働生産性が低下しております。
特に、従業員1人当たり付加価値額の推移でみた大企業と中小企業の格差は拡大しているのが実態です。
資本装備率で見ても大企業と中小企業の格差は大きく、機械や設備への投資額の違いが、生産性の格差につながっています。
近年は、業務の効率化や新たな競争優位の確保を目的としたIT投資の重要性が増していますが、中小企業のソフトウェア投資も長期にわたって横ばいで推移しており、大企業との差が広がりつつあります。
設備投資額のうちソフトウェア投資額が占める割合でも、大企業は12%で上昇基調にあるのに対し、中小企業は4.3%で、低下から横ばい傾向で推移しています。
一方、中小企業の中でも生産性の高い企業を見ると、IT投資、設備投資、賃金水準がいずれも高い傾向にあります。
IT投資を積極的に行う中小企業の方が、売上高や売上高経常利益率の水準が高いのです。
また、海外展開を行う中小企業とそうでない中小企業を比較した際、海外展開を行う中小企業は生産性が高い傾向にあります。
積極的な海外展開、そしてそれに伴う設備投資やIT投資など、事業の成長に向けた投資を行っている中小企業は、成功しており、日本においても中小企業の二極化が進みつつあるといえるでしょう。
ERPシステムを活用して生産性向上と競争力強化を実現
中小企業が生産性を高め、大手企業と対等以上に渡り合うためには、従業員一人一人の能力を最大限に発揮させ、有効に活用することが不可欠です。また、大企業にはできない、柔軟で迅速なビジネス展開を強みとして活かしていくことも重要です。
こうした目的の実現には、ERPシステムを活用した経営管理が有効です。
ERP導入・導入のメリット
ERPとは、「Enterprise Resources Planning」の略で、直訳すると「企業資源計画」です。ヒト・モノ・カネ・情報など、企業が保持する資源を一元的に集約して管理するという考え方及びこの思想を実現するためのシステムをERPは指しています。
従来はこのような企業の情報は、部門ごとに別々のシステムで管理することが一般的でした。そのため、データベース間での情報連携に労力を要する、システム間の情報の粒度が合わないといった問題点がありました。
一方、ERPシステムは1つのプラットフォーム上で情報を管理するという思想で開発されているため、上述したような課題は発生しません。そのため、従来のシステムに代わってERPの導入が進められるようになりました。
ERP導入には、様々なメリットがあります。
例えば、リアルタイム経営の実現がERP導入のメリットの1つです。
従来はシステム間のデータ連携に時間がかかっていましたが、ERP上で情報を管理するようになれば、誰もが瞬時に情報にアクセスできるようになります。さらに、BIツールを使えば、ERP上のデータベースを元に統計やレポートをすぐに作成でき、迅速な経営判断に役立てることも可能です。
また、ガバナンスを強化できることもERP導入のメリットです。
ERPを用いるとシステム間の分断がなくなり、標準化された統一のプロセスで一元的に情報を管理するようになります。一貫したプロセスで管理されていれば、管理者が情報を統制しやすくなり、ガバナンス強化につながるでしょう。
また、ERPにはユーザーごとの情報へのアクセス制限や、ログの取得などの機能を有しているので、これらを有効活用すればコンプライアンスを強化できます。
加えて、業務効率化につながることもERP導入のメリットと言われています。
上述のように、システム間の情報連携を無くすことで不要な業務を無くすことが可能です。
さらに、ERPは様々な先進的な企業の業務プロセスを元に開発されているため、ERPに合わせた業務を行えば大企業のノウハウを取り入れることができます。そのため、ERP導入は生産性向上に寄与すると考えられているのです。
SAP社の中堅中小・成長企業向け統合型ERP「SAP Business ByDesign」
SAP社のERP製品である「SAP Business ByDesign」は、財務管理、顧客管理、人事、プロジェクト管理など、管理業務に必要な機能が1つにパッケージ化されています。
これを用いることで、経営管理を一元化し、管理業務の負担を減らし、より多くのリソースを自社のコアコンピタンスや競争力向上の実現に向けた取り組みに振り向けることが可能になります。
また、ERPで経営資源をリアルタイムに可視化することで、自社の経営資源をリアルタイムかつスピーディーに把握し、迅速な経営判断を行うことができます。
ERPの導入は、グローバル戦略上も重要となります。国内/国外を含めた企業全体の情報を正確に収集でき、経営判断に役立てることができるためです。
例えばERPシステムを用いて、国ごとの税に関するルールの違いや為替換算といった情報粒度を揃えて高い精度で管理できます。手作業やバラバラのシステムを用いた管理では、ERPと同じレベルでの管理は難しいでしょう。
また、コンプライアンス強化もERPの強みです。
リアルタイムで一元的に情報管理できるため、不正に気づきやすくなります。このように、経営判断やコンプライアンスの観点から、ERPの導入はグローバル戦略に役立ちます。
ERPの導入には時間と費用がかかるため、中小企業には難しいというイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、「SAP Business ByDesign」のようなクラウド型ERPであれば、短期間かつ低コストでの導入も可能です。
海外進出に積極的に取り組み、事業を成長、発展させようとする中小企業にこそ、ERP導入のメリットは大きいといえるでしょう。
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