SaaS型ERPとは?クラウドを用いた業務の標準化について、メリットやデメリット、効果的な導入戦略を解説
ERPは、大きくオンプレミス型ERPとクラウド型ERPに分けられ、さらにクラウド型ERPにはSaaS型ERPが存在します。
SaaS型ERPは、低コストかつスピーディに導入できる点がメリットです。近年の急速なビジネス環境の変化にも柔軟に対応できるERPとして注目を集めています。
本記事では、SaaSやERPの概要、ERPの種類といった基礎知識を踏まえて、SaaS型ERPのメリットやデメリット、導入ステップなどを解説していきます。
INDEX
SaaSとは?
はじめに、SaaSの概要やASP/PaaS/IaaSとの違いについて解説します。
SaaSの概要
従来のソフトウェア購入とは異なり、月額料金を支払って、継続的にサービスを利用する点が大きな特徴です
代表的なサービスとしては、Google社が提供するG Suite(旧Google Apps)、セールスフォース・ドット・コム社のCRM、Microsoft社のMicrosoft Office 365などが挙げられます。
ASPとの違い
SaaSに類似する用語としてASP(Application Service Provider)があります。
両者の違いは、SaaSがソフトウェアを指すのに対し、ASPはクラウドサービス提供事業者やビジネスモデルを指している点です。
PaaSとの違い
PaaSとは「Platform as a Service」の略であり、インターネットを経由してプラットフォームを利用できるクラウドサービスを指します。「パース」と呼ばれることが一般的です。
SaaSとの大きな違いは、クラウドサービス提供事業者によるサービス提供範囲がミドルウェアまでであり、アプリケーションは含まれない点です。
IaaSとの違い
IaaSとは「Infrastructure as a Service」の略であり、インターネットを経由してネットワークやサーバーなどのインフラを利用できるクラウドサービスを指します。「イアース」または「アイアース」と呼ばれます。
SaaSとの大きな違いは、クラウドサービス提供事業者によるサービス提供範囲がネットワークやサーバーなどのインフラまでであり、アプリケーションやミドルウェアは含まれない点です。
ERPとは?
続いて、ERPの概要および基幹システムや他の業務システムとの違いについて解説します。
ERPの概要
ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略であり、ヒト・モノ・カネ・情報などの経営リソースを一元管理し、経営に活用する考え方や計画のことです。日本語では「企業資源計画」と訳されます。
ERPは本来、考え方や計画を指す用語です。しかし、経営リソースの全体最適化を実現するためには、システムによるデータの一元管理やデータの可視化が必要であるため、ERPはシステム自体を指すことも少なくありません。
また、ERPは生産管理手法の「MRP(Manufacturing Resource Planning:資材所要量計画)」を、資材レベルから企業全体のリソースレベルにまで発展させた用語となっています。
ERPの主な目的は、企業全体最適の視点で社内情報の一元管理やビジネス上の意思決定の迅速化を実現することです。
基幹システムとの違い
ERPと基幹システムの大きな違いは、システムとしての目的やスコープにあります。基幹システムは、販売や生産といった業務単位での効率化を実現するシステムです。
一方で、ERPは企業全体の経営効率化や意思決定スピードの向上を実現するためのシステムを指します。
他の業務システムとの違い
ERPと他の業務システムとの大きな違いは、システムトラブル時の業務影響の大きさといえるでしょう。
コミュニケーションツールやスケジュール管理ツールといった他の業務システムは、システムトラブル時の業務影響が限定的であり、事業運営そのものが停止するリスクはほとんどありません。
しかし、ERPは販売や生産、会計など企業の基幹業務を支えるシステムであるため、システムトラブル時の業務影響は甚大となります。
参考記事
- ERPとは?基幹システムとの違いや導入形態・メリットと導入の流れを解説 ERPとは、企業の基幹業務の統合化を図り、企業のあらゆる業務プロセスを一元的に管理するためのシステムです。ERPを導入することで、業務の効率化やコスト削減といったメリットを得られます。本コラムでは、ERPパッケージについてまとめ、導入を実現するためのポイントを分かりやすく解説します。
ERPの種類
ERPは、大きくオンプレミス型とクラウド型のシステム構成に分けられます。それぞれの特徴について解説します。
オンプレミス型ERP
オンプレミス型ERPは、「on-premise(敷地内)」という言葉に由来するように、自社が持つインフラ設備内にて構築・運用するERPです。
自社所有のインフラ設備を使ってERPを構築・運用するため、柔軟にシステム機能をカスタマイズできる点や、セキュリティを自社内で強化できる点が特徴です。
その一方で、導入には期間や費用がかかるほか、自社でシステム運用を行うため運用・保守に対して十分な体制を整備しなければなりません。
オンプレミス型ERPは、柔軟にカスタマイズしながらERPを利用したい企業や、自社でシステム運用するための体制や予算が潤沢にある企業に適しています。
クラウド型ERP
クラウド型ERPは、インターネット上のクラウドサービスとして利用できるERPです。
オンプレミス型ERPのように、自社内にサーバーやネットワークを設置・構築して管理や運用を行う必要がありません。
システムの運用・保守はクラウドサービス提供事業者からサポートを受けられるため、運用コストの抑制が可能です。また、オンプレミス型ERPよりも短期間で導入でき、自社設備が不要なことから初期費用も抑えられます。
加えて、インターネット上のサービスとして利用できるため、自宅やサテライトオフィスからのリモートアクセスも可能です。
一方で、セキュリティ対策などは基本的にクラウドサービス提供事業者に依存するため、信頼できる事業者かどうかを見定める必要があります。
クラウド型ERPは、社内のシステム運用の負担を軽減したい企業や、なるべく短期間でスムーズにERPを導入したい企業、リモートワークを促進している企業に向いています。
オンプレミス型ERPとクラウド型ERPの比較
オンプレミス型ERPとクラウド型ERPのメリット・デメリットを、以下の表にまとめました。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
オンプレミス型ERP |
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クラウド型ERP |
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また、オンプレミス型ERPとクラウド型ERPそれぞれに向いている企業の特徴は下表のとおりです。
オンプレミス型ERPに向いている企業 |
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クラウド型ERPに向いている企業 |
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クラウド型ERPの種類
クラウド型ERPは、さらにSaaS型ERP、PaaS型ERP、IaaS型ERPに分類されます。
SaaS型ERP
SaaS型ERPは、インフラやミドルウェア、アプリケーションまでを一式クラウドサービスとして提供しているERPです。
多くの場合は月額料金となっており、クラウドサービス提供事業者が運用の多くを担うため、ユーザー企業の手間やコスト負担が少ないというメリットがあります。
また、アプリケーションを含めすべてがクラウドサービスであるため、インターネット上で利用でき、リモートワークとの相性も良いです。
ERPのなかでも、SaaS型ERPは導入が急速に進んでいます。IT調査・コンサルティング会社のITRの調査*によると、SaaS型ERPの市場規模は2022年度で760億円です。3年後の2025年度では、約2倍相当の1,350億円が見込まれており、今後さらなる普及が予想されます。
SaaS型ERPの普及が大きく進む背景としては、ビジネス環境の急速な変化や、企業のリモートワーク促進などが考えられます。
*出典:「ITR Market View:ERP市場2022」こちら
PaaS型ERP
PaaS型ERPは、アプリケーションを除いたサーバーやネットワーク、ミドルウェアなどをクラウドサービスとして提供しているERPです。
インフラやミドルウェアに対する従量課金制である場合が多く、アプリケーション部分はユーザー企業の責任範囲となります。
SaaS型ERPよりもカスタマイズ性が高い反面、自社での運用負担は大きくなります。
IaaS型ERP
IaaS型ERPは、サーバーやネットワークなどのインフラ環境をクラウドサービスとして提供しているERPです。
インフラに対する従量課金制である場合が多く、アプリケーションやミドルウェアはユーザー企業の責任範囲となります。
PaaS型ERPよりもさらにカスタマイズ性は高まりますが、ミドルウェアやOSに関しても自社で運用責任を持つ必要があります。
SaaS型ERPのメリット
SaaS型ERPの主なメリットとして、以下が挙げられます。
- スピーディかつ低コストに導入できる
- 自社で運用する手間を省ける
- 自社からも自宅(外出先)からもリモートワークを促進できる
スピーディかつ低コストに導入できる
SaaS型ERPは、クラウドサービス提供事業者と契約するだけで、インターネットを経由してすぐにサービスを利用可能です。
スピーディかつ低コストにERPを導入できるため、変化の急速なビジネス環境にも対応しやすくなります。
自社で運用する手間を省ける
SaaS型ERPであれば、インフラからアプリケーションまでをすべてクラウドサービス提供事業者が管理するため、自社で運用する手間を省けます。運用・保守のリソースを効率化することで、他のコア業務などにリソースを割けるようになるでしょう。
自社からも自宅(外出先)からもリモートワークを促進できる
SaaS型ERPは、インターネット環境さえあればアクセスできる点もメリットです。
自宅やサテライトオフィスからの利用も可能なため、企業のリモートワーク促進や新たな働き方につながります。
SaaS型ERPのデメリット
一方で、SaaS型ERPのデメリットとしては以下が考えられます。
- カスタマイズが容易ではない
- オフライン環境では利用できない
- 復旧対応やセキュリティ対策がクラウドサービス提供事業者に依存している
カスタマイズが容易ではない
SaaS型ERPは、自社でサーバー構築やアプリケーション開発が不要である反面、柔軟なカスタマイズがしにくいデメリットがあります。
そのため導入するSaaS型ERPが、自社の求める業務要件や機能を満たしているかを事前に確認することが重要です。
オフライン環境では利用できない
SaaS型ERPは、インフラからアプリケーションまでをクラウドサービスとして提供しており、オフライン環境では利用できない点もデメリットです。
インターネットに接続しにくい環境や通信が不安定な環境の場合、業務に影響をきたすおそれがあります。
復旧対応やセキュリティ対策がクラウドサービス提供事業者に依存している
SaaS型ERPは、インフラからアプリケーションまでの一式がクラウドサービス提供事業者の責任範囲です。
言い換えれば、システムトラブル時の復旧対応やセキュリティ対策も、クラウドサービス提供事業者に依存します。
そのため、Service Level Agreement(サービス品質保証 以下 SLA)やセキュリティレベルなどを確認し、信頼できる事業者を選定することが重要です。
SaaS型ERPに向いている企業
SaaS型ERPに向いている企業の主な特徴として、以下の3つが挙げられます。
- 導入費用や導入期間をなるべく最短にしたい企業
- 自社でシステムの運用・保守を行う体制が整っていない企業
- オフィス外からのアクセス機会が多い企業
導入費用や導入期間をなるべく最短にしたい企業
SaaS型ERPの強みは、スピーディかつ低コストに導入できる点です。
したがって、スケジュールや導入コストに余裕のない企業にとっては、SaaS型ERPの導入が向いているでしょう。
自社でシステムの運用・保守を行う体制が整っていない企業
SaaS型ERPであれば、インフラからアプリケーションまでをクラウドサービス提供事業者が管理してくれるため、自社の運用負担を大きく軽減できます。
システム運用体制に十分なリソースを割けない企業にもおすすめです。
オフィス外からのアクセス機会が多い企業
社外からリモートアクセスして業務を実施できることもSaaS型ERPの特徴です。
リモートワークを促進している企業や、外出先から営業担当などがアクセスする機会の多い企業にも適しています。
SaaS型ERPの導入ステップ
SaaS型ERPを導入する際は、以下のステップで進めていくことが重要です。
- ERPの導入目的やビジネス目標を明確にする
- プロジェクト計画およびERPの選定
- 業務要件の定義
- ERP導入
- ERP導入後の対応
ERPの導入目的やビジネス目標を明確にする
はじめに、ERPを導入する目的や、導入によって達成したいビジネス目標を明確にしましょう。
ビジネス目標においては、最終ゴールとなるKGI(重要目標達成指標)、およびKGI到達のために重要なプロセス指標となるKPI(重要業績評価指標)を具体的に設定することが大切です。
導入目的やビジネス目標を明確化することで、ERP導入後の効果検証や改善を行う際の指標としても活用できます。
プロジェクト計画およびERPの選定
導入目的やビジネス目標が明確になったら、必要なスケジュールや予算、体制などを整理し、プロジェクト計画書としてまとめていきましょう。
プロジェクト計画書でまとめた自社の要件や制約条件などを踏まえて、ERPを選定していきます。
ここでは、自社の状況を踏まえて、本当にSaaS型ERPが適切であるかの判断が必要です。
たとえば、社内で十分な予算や体制を確保できない場合、SaaS型ERPを選定して導入コストの低減や運用リソースの効率化を図ることは有効と言えるでしょう。
一方で、自社の商習慣に合わせたカスタマイズ性の高い開発が最優先条件である場合は、オンプレミス型ERPも選択肢に入れて検討することが推奨されます。
業務要件の定義
ERP選定後は、ERP導入後の業務要件を固めていきます。
ERP導入後は業務プロセスを抜本的に変更するケースもあるため、この機会に全体最適の視点で、あるべき姿を検討しましょう。そのためには、現状の業務課題を漏れなく洗い出すことも必要です。
業務要件の定義では、業務プロセスとERP機能とのFIT&GAP分析を行います。
SaaS型ERPを選択した場合は、基本的にERPの標準機能に自社の業務プロセスを合わせる「Fit to Standard」の考え方を踏襲するのが一般的です。加えて、各部署の責任者や有識者も招集し、あらかじめ合意形成を図っておくこともポイントです。
ERP導入
業務要件の定義ができたら、テストや初期設定、データ移行などを実施していきます。
ERPは、一度に全体へ導入すると業務影響が大きくなりやすいため、まずは試行的に導入していきましょう。
試験的に一部の事業場などに導入し、現場利用者による操作テストや不明点・課題の洗い出しを行います。そして、試行導入で明らかになった課題や操作上の不明点などを踏まえ、利用者マニュアルを作成していきます。
試行導入での検証やマニュアル整備ができたら、各事業場へ本格的に導入を行っていきましょう。
ERP導入後の対応
ERP導入後しばらくは、現場利用者からの問い合わせやトラブルが発生しやすい期間です。
そのため、社内に問い合わせ対応を行う組織を設置するとともに、クラウドサービス提供事業者と密に連携できるようにしておくことが重要です。
また、導入後の効果検証として、導入前に設定したKPIの達成状況の確認なども忘れずに実施しましょう。
参考記事
- Fit to StandardアプローチによるERP導入とは? 「Fit to Standard」とは、業務内容をERPに合わせて導入していく手法で、近年注目を集めています。従来のERPを業務に合わせ導入し、運用する手法とは異なり、このような変化の激しいビジネス環境において柔軟に迅速に対応が可能です。本コラムで詳しく、分かりやすくご紹介します。
SaaS型ERPにおけるおすすめ製品
ここでは、SaaS型ERPのおすすめ製品として、SAP社の製品を2つ紹介します。
- SAP S/4HANA Cloud
- SAP Business ByDesign
SAP S/4HANA Cloud
SAP S/4HANA Cloudは、2016年から日本で提供されているSAP社のSaaS型ERPです。
世界最大のERPシェアを誇るSAP社のクオリティを、低コストかつ短期間で自社に導入できます。
SAP S/4HANA Cloudは、プライベートクラウド(シングルテナント型)とパブリッククラウド(マルチテナント型)のいずれにも対応している点が特徴です。
たとえば、プライベートクラウドであればクラウド上のインフラやアプリケーションに専用的にアクセスでき、自社の業務要件や用途に合わせて柔軟にカスタマイズできます。
オンプレミス型ERPのようにアドオン開発も可能なため、SaaS型ERPの手軽さを享受しつつ、自由度の高いカスタマイズも実現したい企業には特におすすめのERPです。
SAP Business ByDesign
SAP Business ByDesignは、2013年から日本で提供されているSAP社のSaaS型ERPです。
SAP S/4HANA Cloudと同様にSaaS型ERPであるため、低コストかつ短期間で自社に導入できます。
料金は毎月の継続課金制で、必要な時に必要な分だけ利用可能です。また、販売管理や生産管理、会計管理などの主な基幹業務には一通り対応しています。
日本を含む世界117カ国で提供され、2018年時点で約3,700社の企業に導入されるなど、実績も豊富です。低コストかつ短期間で導入できることから、資金面などの制約がある中堅・中小企業でも多く利用されています。
さらに、さまざまな国・地域の法令や商慣習に対応できるため、グローバル展開する大企業にとっても海外拠点への導入などに活用できます。
参考記事
- SAPとは SAPは、「経営・業務の効率化」や「経営の意思決定の迅速化」を実現することを目的に、多くの企業で導入されているITソリューションです。このITソリューションにより、企業の経営資源である「人・モノ・カネ」の情報を一元で管理ができ、そして経営の可視化を実現できます。本コラムでは、SAPについて詳しく解説をしていきます。
まとめ
SaaS型ERPはクラウド型ERPの一種であり、インフラやミドルウェア、アプリケーションをまとめてクラウドサービスとして提供しているERPです。導入費用やユーザー企業の運用負担が少ない点や、短期間で導入できる点が特徴です。
また、インターネット上でアプリケーションを利用できるため、オフィスの外からでもアクセスできるメリットがあります。
SaaS型ERPは、低コストかつスピードにERPを導入したい企業や、運用負荷を軽減したい企業、オフィス以外からのアクセス機会が多い企業に向いています。
SaaS型ERPを導入する際は、業務要件やスケジュール、予算、体制などを踏まえて、自社に適しているかを判断することが重要です。そのうえで、業務プロセス検討やマニュアル作成を行い、段階的に導入していきましょう。
関連資料
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