データ連携の意義とは?SAPシステムでの手段、進める上での注意点について解説
SAPシステムは最も需要があるERPシステムであり、世界中の企業で導入されています。
SAPシステムの特長の一つに、他システムとデータ連携をするためのサービスを複数提供していることが挙げられます。これらを導入すれば、ビジネスへのデータ活用をさらに推進することにつながります。たとえば社内業務効率化や顧客のニーズの把握など、さまざまな分野で効果が期待できるでしょう。
今回のコラムでは、SAPシステムのデータ連携に関して解説します。データ連携の意義と手段に加え、その仕組みを構築する上でよく発生する課題についても取り上げます。
INDEX
SAPシステムのデータ連携の意義
SAPシステムのモジュールは1つだけでも多くの機能を備えており、一般的な業務要件の多くをカバーすることができます。
財務・管理会計、販売管理、調達・在庫管理などさまざまなモジュールが用意されているので、単体で導入しても効果が見込めるでしょう。
しかし、ほとんどの企業ではSAPシステムと他システムを連携させることで、単体で利用するよりさらに大きな効果を期待できます。
SAPシステムと他システムのデータ連携はなぜ必要か?
企業がビジネスを推進する上で、DXは避けては通れないものになっています。
ビジネスの基盤となるSAPシステムと他のシステム間でのデータ連携を図ることは、企業の保有するデータの一元管理を可能にします。また、企業のDX化を推進する第一歩にもなるでしょう。
ここでは、何故システム連携が求められているかについて、整理していきます。
現代はDXの時代
多くの業界や業種・企業にとって、DXへの順応が必須の時代となりました。
たとえばSaaS型サービスのサブスクリプションなど、DXによって新たなビジネスモデルが誕生しており、古いビジネスモデルではもはや市場価値を高めていくことは難しくなっています。その他にも、市場ニーズの調査、顧客への情報発信、業務の自動化など、DXはさまざまな分野で効果を発揮しています。
さらに、マーケティング、働き方改革、コスト削減などにおいても同様です。たとえばマーケティング面では、社内の業務システムと連携し、自社製品・サービスの提供方法の最適化や顧客それぞれの趣味嗜好に合わせたパーソナライズ化などが求められています。DXによって、企業は時代の変化に合わせて迅速にマーケティング施策を最適化することが可能になるでしょう。
また、企業内部でも積極的に活用されており、リモートワークの実現による働き方改革や、業務プロセスの自動化によるコスト削減などにも欠かせません。
政府もDXの推進を推奨
DX推進は、行政も力を入れています。経済産業省は日本企業のデジタル化の遅れを問題視しており、「2025年の崖」という言葉で企業に警鐘を鳴らしてきました。
日本企業の基幹システムは、主に以下の理由によりDX推進ができておらず、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があることが懸念されています。
そのため経済産業省は「デジタルガバナンス・コード」というDX推進のための指針を作成しています。経営者に向けて、デジタル戦略において求められる対応をまとめた内容になっています。
DX推進にはSAPシステムの活用が最適
SAPシステムなどのERPシステムを積極的に活用することは、企業がDXを推進していく上で有効な手段の一つです。その大きな理由は、ERPシステムは企業のあらゆる情報を一元管理できるシステムであるという点です。社内で保有しているデータを有効に活用できれば、競合他社に負けない付加価値を生み出すために役立てられます。SAPシステムには、DXを効果的に導入できるさまざまな仕組みが用意されているからです。
たとえば、AI、機械学習、IoTなどの最新技術を利用できるので、業務自動化による人件費削減や、ヒューマンエラー削減による商品・サービスの品質向上など、企業が持つさまざまな課題を改善する可能性を秘めています。
参考記事
- SAPとは SAPは、「経営・業務の効率化」や「経営の意思決定の迅速化」を実現することを目的に、多くの企業で導入されているITソリューションです。このITソリューションにより、企業の経営資源である「人・モノ・金」の情報を一元で管理ができ、そして経営の可視化を実現できます。本コラムでは、SAPについて詳しく解説をしていきます。
- デジタルトランスフォーメーションとは?DXの定義や課題を解説 デジタルトランスフォーメーションとは、簡単にいうと「進化し続けるテクノロジーで人々の生活をより豊かにするための変革」のことで、一般的には「Digital Transformation」の頭文字をとって「DX」とも呼ばれています。既存の価値観や枠組みにとらわれることなく、デジタル技術を用いてビジネス環境を根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすものとして期待され、多くの企業で、最適な形でのDX推進の動きが進んでいます。
- SAP ERPのモジュールとは?代表的なモジュールの役割とその相関関係をご紹介 SAP社のERPパッケージは、モジュールと呼ばれる業務分野別にまとめられた機能群で構成されています。今回のコラムでは、SAP ERPの代表的なモジュールを例に、モジュールの役割や相互の関係について説明します。また、次世代のERP「SAP S/4HANA」で提供される機能についても分かりやすくご紹介します。
SAPシステムで用意されているデータ連携の手段
SAPシステムを他システムと連携させる手段は複数あります。
開発の生産性、セキュリティ、データ量、連携頻度、連携先システム側の仕組みなど、さまざまな視点からどの手段を用いるべきか考慮を重ねて選びましょう。それぞれのデータ連携手段の特徴を理解し、適したものを選択することが必要です。
① SAP IDoc
IDocとは「Intermediate Document」の略で、SAPシステムの標準ファイルフォーマットを利用してデータ連携を行う仕組みを指します。
プログラミングではなく、設定でデータ連携部分を構築していくイメージです。送受信側それぞれのシステムやIDocタイプによって必要な設定は異なります。
IDocタイプとはデータの構造を規定するもので、フィールドの数、データ型、セグメントなどが定義されています。
SAPシステムのデータ連携の手段を検討する際は、まずこの仕組みを利用して構築を模索します。SAPシステム側で用意されているIDocであれば、低コストで保守性が高いデータ連携を構築できます。
② SAP BAPI
BAPIとは「Business Application Programming Interface」の略で、SAPシステムと外部システムとの連携をオブジェクト指向で構築することができます。
外部システムと連携する際に使われることが多いインターフェースです。
SAPシステムにBAPIとしてのプログラムを登録することで、アドオンモジュールや外部システムから呼び出すことが可能になります。カスタマイズしたオリジナルのBAPIを実装することもできますが、業務のベストプラクティスを想定した標準のものも備わっています。
前述のIDocと比べると、プログラムを実装する形となるため、開発コストはかかるものの自由度が高く、複雑な業務ロジックの構築が可能です。
③ その他の連携
IDocやBAPI以外にも連携手段はあります。
例えば、Remote Function Callは昔から使われている連携手段で、クライアント側がサーバー側で実装された機能を呼び出すことでデータ連携を行います。SOAP WebserviceやREST APIも代表的な連携手段です。その他にも、データ連携ツールとして有名なAsteria やRPAとして普及しているUiPathを利用できるなど、SAPシステムと他システムを連携させる選択肢は数多く用意されています。
ただし、これらの手段はデータ構造を独自に決定していく必要があります。細かい要件まで対応できる一方、コストが増加するデメリットもあります。
SAPシステムの追加開発を進めていく上では、IDocやBAPIなどSAPシステムが用意している手段を利用した方が、開発効率やコストの観点から望ましいでしょう。
データ連携を進める上でよく発生する課題と解決策
データ連携の仕組みを構築するプロジェクトは、基本的に難易度が高くなります。高品質な仕組みを効率的に構築するには、よく発生する課題を理解した上で検討を進めることが重要です。
課題①:システム間での設計思想が統一されていない
スタートアップ企業など規模が小さい企業でも、ビジネスを推進するには複数のシステムを活用しなければならないことがほとんどです。そして、企業規模が大きくなればなるほど、当然活用するシステムも増えていきます。
ただし残念ながら、どうしても業務部門ごとに異なる設計思想のもと、システム開発が進められることが多いのが実状です。
一企業の中で設計思想を統一しないままシステム開発を進めることは、将来的に部門をまたぐシステム連携を構築する際、大きな障害になることが多いので注意が必要です。
対策:連携元と連携先のシステム全体を考慮して手段を検討する
効果的なシステム開発を進めるためには、初期の段階から企業全体で考え方を統一しておくことが推奨されます。
将来的な要件も考慮してITグランドデザインを作るなど指標を用意し、部門をまたぐ場合でもシステムの一貫性が保てるようにしておくことが望ましいでしょう。指標の作成はITへの予算を効率的に使っていく上で必須と言えます。
ITシステムの開発プロジェクトには、ユーザー、開発担当者、業務担当者、経営層など多くの人が関わります。またシステムへの要件を一度に取り入れることはあまり現実的ではなく、長期的なプロジェクトになることがほとんどです。
指標が無い場合、業務システムごとに個別要件が増えてしまい、他システムとの連携が困難なほど複雑になっていくことが懸念されます。
まずは会社全体の戦略や目的を踏まえ、考えをまとめておくことが重要です。その上で業務システムごとに仕様や設計を詳細に検討することになりますが、判断に迷った場合は指標に戻ってあり方を考えます。
企業全体のシステムを適切に連携していく上で重要な対応になります。
課題②:システム間のデータ構造や定義の差異によりシステム全体が複雑化しやすい
システムはそれぞれ異なる業務要件に対応するため、必然的にデータ構造や定義は異なってきます。そのため、インターフェース部分は非常に細かい調整が必要になります。
たとえば、日付データを連携する際、送信元は年月日のみのデータ、送信先は年月日に加えタイムゾーン情報も定義されていたとします。その場合、送信する際には連携先のデータ定義に合わせてデータを変換する仕組みを作る必要があります。
このようなデータ変換プログラムが増えるにつれて、企業システム全体の構造は複雑で保守しづらいものになっていきます。
対策:事前の実装ルール作成、既存の連携手段の利用など、保守を意識して工夫する
インターフェース部分の実装を効率的に進めるには、実装ルールなどを事前に作っておくことが有効です。
ただ、昨今のシステム開発ではサードパーティーのサービスを組み込むことも多いため、難しくなる場合もあるでしょう。その場合は、既存のデータ連携の仕組みを利用することで、開発コストを安く済ませることが可能です。
たとえば、SAPシステムであればIDocが挙げられます。システム連携を構築した場合、結合部分が想定通り動作するか確認する必要がありますが、既存の仕組みを利用する場合と自前でIFプログラムを作成する場合では開発・テスト面で大きな違いがあります。
自前の場合、開発工数が多くなり、テストでも不具合が発生しやすくなります。一方、既存の仕組みを利用すれば、設定するだけで仕組みを構築できるため、システム面での不具合は発生しにくくテストもスムーズに進みます。
課題③:セキュリティやパフォーマンス課題といった致命的な課題が発生しやすい
データ連携部分は、セキュリティ面の脆弱性が発生しやすい箇所と言えます。
たとえば、通信が暗号化されていない、連携用のデータファイルに誰でもアクセス可能になっているなど、技術面でも運用面でも問題となる場合があります。また、データ連携はシステムのパフォーマンスにも大きく影響します。
不適切な手段で構築した場合、システムの速度劣化が原因で業務要件を満たせなくなるといった障害も発生します。
対策:セキュリティポリシーの遵守と早期のパフォーマンス検証の実施を徹底する
システム連携を構築する場合、セキュリティ面で問題がないか確認することは重要です。
あらかじめ自社のセキュリティポリシーを確認しておくことが求められます。必要に応じて暗号化、高度な認証機能の利用、VPNや専用線の構築などを検討しましょう。
特に外部システムやサービスと連携する場合は注意が必要です。サードパーティーが提供しているシステムであれば、自社のセキュリティ要件を満たしていない部分があっても改善を依頼することは困難です。基本的には自社のセキュリティポリシーを満たしたサービスから選定することになります。
また、システムの応答速度が業務要件に叶うか確認することも重要です。
データ連携は大きな速度劣化が発生することもあるため、入念に確認を行いましょう。速度検証を行い、必要に応じてパフォーマンスチューニングなどを実施します。速度に関してはできるだけ早い段階で確認することがポイントです。開発完了後に速度要件を達成していないことが発覚した場合、プログラム改修だけでは十分でないことも多くあります。
データベース構造やシステム構成などから見直さなければならず、システム実装を再実施することにもなりかねません。設計の段階で類似システムを参考にするなど、できる範囲で要件を満たせるか確認しておくことが望ましいと言えます。
まとめ
SAPシステムと他システムを連携していくことは企業にとって大きな意義があります。自社ビジネスに新たな付加価値を生み出す可能性を秘めているからです。
しかし、複数のエンタープライズシステムを効果的に連携していくことは簡単なことではありません。各システムの要件や仕様などをできるだけ初期の段階でまとめることがポイントになります。それに加え、自社ビジネスの将来も視野に入れて検討していくことが推奨されます。
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