在庫管理とは?SAPソリューションを活用した在庫管理の可視化、そのメリットを解説
グローバル規模での競争激化や、人口減少・少子高齢化といった国内市場の変化に対し、企業は自社の持つ経営資源を活用し、競争優位を獲得していく必要があります。
在庫管理においても、甘い需要予測や誤発注により余剰在庫を抱えることは、経営資源の効率的な活用という観点から避ける必要があります。新型コロナウィルス流行により市場環境が激変する中で、経営資源を効率的に活用することの重要性がますます高まっています。
今回は、SAPソリューションでできる在庫管理の可視化、また、在庫管理と生産、流通などのプロセスをERPで一元管理することのメリットについて説明します。
ぜひ、ご一読ください。
INDEX
在庫管理の目的
在庫とは、端的に言えば「収益化を待っている状態にある資産」です。
売業や製造業など、実際にモノを扱う業種では在庫管理の状況が企業の収益を左右します。
在庫管理の具体的な目的は下記2点です。
それぞれ具体的に見て行きましょう。
販売の機会損失を防ぐ
在庫管理を適切に行うことにより、「適正在庫」を維持することができます。適正在庫とは、過去のオーダーや売れ行きから算出した適正な在庫の数量です。
適正在庫を維持することにより、「売りたいときに売りたいものが常にある」状態を保つことができます。
また、裏を返せば「販売の機会損失を減らす=売上の減少リスクを低くおさえる」ことだとも言えるでしょう。
在庫管理コストの低減
倉庫の維持費用や人件費、システム費用など在庫管理にはコストが生じます。在庫管理コストは、在庫金額の1~2割に達するともいわれています。
在庫管理の適正化は、余剰在庫の維持コストが削減されるだけではなく、収益改善の一助になるでしょう。
在庫管理の課題
次に、一般的によくある在庫管理の課題を紹介します。
在庫管理では主に「数量把握の精度」「拠点をまたいだ在庫管理」「具体的な在庫状況の可視化」などが課題になりがちです。具体的に見て行きましょう。
数量把握の精度が低い
前述のように、在庫管理では適正在庫を維持することで経営の攻守両面にメリットをもたらします。適正在庫を維持するためには、精緻な数量把握が欠かせません。
しかし、頻繁に入出庫を繰り返す状況下では、数量把握の精度が下がってしまう可能性があります。
特にスプレッドシートやExcelなどで数量を把握していると、在庫移動状況と入力の間にタイムラグが生じるため、リアルタイムに数量の変化を追うことが難しくなります。
また、担当者が入庫処理を行っていなかったり、急いで出荷されたものがシステム上処理されていなかったりという小さなミスが重なると、棚卸し時に原因不明の差異が生じてしまいます。
さらに、データ処理が重くなることを考慮し、在庫の変化を業務時間中に処理することを避けて夜間のバッチ処理で対応していることもあるでしょう。
このような状況下では「システム上は存在するが、実際には存在しない在庫」が常に発生し、数量が正確に把握できなくなります。
数量把握がなおざりになると、販売機会の逸失を防ぐために余剰在庫を抱えることが習慣化し、在庫管理費用の適正化が進みません。したがって、数量把握の精緻化は最優先で対応すべき課題です。
拠点をまたいだ在庫管理が難しい
複数の配送拠点と倉庫を組み合わせて物流システムを構築する場合には、拠点間の在庫管理に関する課題も発生します。
例えば部品を管理する拠点Aの倉庫から拠点Bへと在庫を送り、拠点Bで組み立てて拠点Cへ入庫するといった流れでは、少なくとも3拠点での在庫管理が必要です。
また、拠点間で在庫移動や転送オーダーの発生状況が共有されていなくては、正確な在庫管理は実現しません。
複数拠点の在庫管理は非常に難易度が高く、統合的に管理する責任者がいたとしても、頻繁に変化する情報を追い切れずに欠品や過剰在庫が生じることがあります。
所有権と在庫保管場所の不一致を管理できない
在庫管理は販売方法と密接に関係しているため、自社で保管している在庫は必ずしも自社の所有物であるとは限りません。
例えば委託在庫や受託在庫などは、在庫自体は自社の倉庫に存在しているものの、所有権は社外にあります。これらは特殊在庫と呼ばれ、通常の在庫とは別の管理が必要です。
特殊在庫と通常の在庫が混在してしまうと、在庫の特定や入出庫作業に手間がかかり、販売期間の損失につながる可能性があります。
在庫が持つ資産価値の把握が難しい
品目によっては、時間の経過とともに在庫の価値(原価や販売価格)が変化する場合があります。
在庫管理は会計とも密接に関係するため、一定ではない在庫の価値を把握し、自社内にどれだけの価値が保管されているかを把握しなくてはなりません。
しかし、品目の数があまりにも多いと在庫の資産価値に対する計算が追い付かずに、正確な価値を把握できないことがあります。
在庫管理は「可視化」「リアルタイム化」が重要
これら在庫管理の課題を解決するためには、「可視化」と「リアルタイム化」を徹底した在庫管理システムが必須です。
複雑化し、スピードが重視される現代のビジネス環境において、人の手による在庫管理は現実的ではありません。
複数の拠点と品目に関するデータを自動的に更新し、常に可視化できる一元的なデータベースの存在が欠かせません。
SAP ERPが持つ在庫管理機能
SAP ERPでは、在庫購買管理モジュールにおいて種々の課題を解決する機能を提供しています。SAP ERPの在庫購買管理モジュールでは、原価が存在するモノを在庫として定義し「何が」「いつ」「どこに」「どれだけ」あるかを精密に管理します。
また、在庫のステータス(移動中や利用可能など)や原価の変遷なども管理できるため、適正在庫の維持や在庫管理コストの把握に役立つでしょう。
下記は、SAP ERPが持つ在庫管理機能の一覧です。
数量管理
SAP ERPでは品目単位、プラント、保管場所、ロットなどさまざまな条件で在庫数量の確認ができます。
これらは、標準トランザクションからいつでも照会できるほか、入出庫に状況に応じた過去の在庫数量の履歴も参照可能です。
さらに、販売単位・購買単位・製造単位といった断面でも数量を取得できるため、業務プロセスの任意の断面で数量を特定できる仕様になっています。
金額(原価)管理
品目と原価を「評価レベル」と「評価タイプ」という2つの軸で管理することができます。
在庫として登録する際に使用する「評価レベル」の原価と、グレード・ロット・時間経過などで変化する「評価タイプ」の原価を使用し、在庫がもつ正味の価値を算出することが可能です。
例えば、通常の販売価格が500円である商品Aの場合、評価レベルの原価が300円としましょう。商品Aは賞味期限が近くなると販売価格を400円に下げるため、評価タイプで原価を250円に設定して登録しなおします。
こうすることで、在庫がもつ価値の変動をリアルタイムに可視化することが可能です。
入出庫予定管理
入出庫の予定を、品目・時期・理由などで管理する機能です。
品目マスタに登録されている在庫が、登録された入出庫予定日にどのような理由で移動するかを把握することができます。
また、SAP ERPでは在庫転送の種類として大きく「ワンステップ在庫転送」「ツーステップ在庫転送」の2タイプがあります。
ワンステップ在庫転送とは
ワンステップ在庫転送は、異なる拠点間における一段階の在庫転送を管理する機能です。
ある拠点から出荷された在庫は、利用可能在庫として登録されます。
ツーステップ在庫転送とは
一方で、ツーステップ在庫転送は拠点間の移動が2回ある場合を管理する機能です。
ツーステップ在庫転送では拠点間移動のステータスとして「積送中在庫」が設けられており、移動中である旨が瞬時に判別できるようになっています。
移動実績管理
予定されていた在庫移動が完了した場合に実績を管理する機能です。
移動実績管理は、在庫移動の履歴を管理するとともに、在庫移動によって生じる拠点ごとの在庫金額の差異も管理します。
棚卸管理
オフラインで確認した在庫数量を棚卸資産として計上・管理し、棚卸決済まで完結させる機能です。
SAP ERPでは棚卸管理の方法として「入出庫伝票登録による管理」と「棚卸伝票登録による管理」の2種類があります。
在庫1つ当たりの金額が小さくスピードを重視するならば前者、在庫の金額が大きければ後者がおすすめです。
特殊在庫管理
所有権と場所が一致していない特殊な事情を持つ在庫を、通常の在庫とは別に管理するための機能です。
「自社所有特殊材在庫」と「社外所有特殊在庫」の2タイプを管理することが可能です。
請求処理の自動化
SAP ERPではERS(入庫/請求自動決済)によって、請求と支払い処理の自動化が可能です。
また、請求書は納品書や配送伝票を参照しながら作成できるため、手入力による請求書作成のミスを減らすことに役立ちます。さらに請求書のデータは、SKU(品番)レベルや品目レベルで細かくチェックすることができます。
倉庫管理機能
倉庫の入出庫管理を効率化し、正確性を向上させるための機能です。
倉庫内の労務管理や作業工程管理、入出庫にかかる一連の倉庫内作業を一元的に管理することができます。また、生産管理・購買管理・販売管理等の機能との連携も可能で、精緻な在庫管理に役立ちます。
参考記事
- SAPとは? SAPは、「経営・業務の効率化」や「経営の意思決定の迅速化」を実現することを目的に、多くの企業で導入されているITソリューションです。このITソリューションにより、企業の経営資源である「人・モノ・金」の情報を一元で管理ができ、そして経営の可視化を実現できます。本コラムでは、SAPについて詳しく解説をしていきます。
インメモリ技術を活用したリアルタイム在庫管理
これまで紹介した機能は、SAP ERPに実装されているものです。SAP社ではERPのみならず、サプライチェーン全体の効率化・可視化を進めるために新たなソリューションを提供しています。
それが「SAP Integrated Business Planning(以下、SAP IBP)」です。
SAP Integrated Business Planning(以下、SAP IBP)とは
SAP IBPは、需要予測・販売計画・在庫最適化・供給計画・生産計画およびサプライチェーンの可視化・監視等の機能を統合した新世代のSCMソリューションです。SAP IBPを活用することにより、市場から発生する需要に対して、在庫をアジャイル的に調整することが可能です。
具体的には、販社・在庫保管拠点・物流拠点・製造工場・サプライヤーの在庫を適正化し、サプライチェーン全体でコスト低減と機会損失の最小化を図ります。
このSAP IBPは、インメモリデータベースによる高速処理を土台とする「SAP HANA」に合わせて最適化されており、高速かつリアルタイムなデータ処理が特徴です。
インメモリデータベースとは
インメモリデータべースとは、メインメモリ(主記憶装置:RAM)上にデータを展開し、処理を完結させるデータベースを指します。
一般的にインメモリ上のデータは、ストレージ内のデータよりも高速に読み書きされるため、変更・削除・追加などのデータ処理速度が向上します。また、すべての作業をメインメモリ上で完結することでデータのリアルタイム性を飛躍的に向上させることが可能です。
HDDやSSDなどのストレージを主に活用する従来のERPでは、明細や集計など複数のテーブルを更新する際のパフォーマンス低下が課題になりがちでした。また、大量に同一品目の入出庫処理をする際にテーブルの品目情報がロックされ、処理に遅延が発生するという問題もありました。
こうした事情から、営業時間内の入出庫処理に影響がない時間帯(夜間など)にのみ在庫数量の更新処理を実施できず、真にリアルタイムな在庫データは取得できていないことが大半でした。
SAP HANAでは上記の課題をインメモリデータベースの高速処理によって解決しています。
処理パフォーマンスの大幅な向上により、システム上のデータと実際の在庫を常に一致させることが可能になり、無駄のない「リアルタイム在庫管理」が実現できるようになったからです。
また、ERPが持つデータと統合することで、サプライチェーンに留まらず、経営全体を俯瞰し、経営資源を効率的に一元管理することが可能になりました。
参考記事
- SAP HANAとは? SAP HANAとは、SAP社が提供するメモリ・カラム型の超高速データベースシステムです。本コラムでは、SAP HANAの概要をはじめ、機能やメリット、SAP社のERPパッケージとの関係性などを詳しく解説します。
SAP S/4HANAとSAP IBPの連携
SAP社の次世代ERPであるSAP S/4HANAは、SAP IBPとネイティブに連携しています。
SAP S/4HANAと連携することで、精度の高いマーケティング・販売・調達・生産・物流などの情報をリアルタイムにSAP IBPに反映し、市場の変動に素早く的確に対応することができます。
市場の鈍化や顧客の需要減といった情報やシグナルをキャッチし、経営情報を一元管理することができれば、余剰在庫を大量に抱えるような事態を避けることが期待できます。加えて、こうしたテクノロジーを活用することにより、経営資源の効率的な活用を実現することができます。
例えばベルギーの大手通信企業は、様々な経営情報の見える化や予測精度の向上を通じて、在庫レベルを15%削減することに成功しました。不要な在庫を減らすことで、キャッシュフローが改善し、経営資源を今後の成長に必要な投資に振り向けることができるようになったのです。
様々な経営情報の連携スピードが遅いと、市場や顧客が求めるタイミングや量に的確に対応することができず、機会損失や過剰在庫、キャッシュフローの減少につながります。
リアルタイム性が求められる現在のビジネス環境においては、インメモリデータベースによる高速処理はSAP HANA、そしてSAP HANAに最適化されたSAP S/4HANAやSAP IBPの大きな強みの一つといえます。
参考記事
- SAP S/4HANAとは? SAP S/4HANAとは、SAP社が提供する次世代のERP製品です。本コラムでは、SAP S/4HANAの概要をはじめ、その機能やメリットなどを詳しく解説します。
的確な在庫管理により経営資源を効率的に活用
商品が入庫すれば在庫となり、注文が入れば在庫から商品が出荷されます。
そのバランスが崩れて過剰在庫となれば、在庫費用の増加やキャッシュフローの減少といった影響があります。逆に在庫が少なすぎれば、欠品となりビジネス機会や顧客の信頼を失うことになるでしょう。
そうした意味で、在庫は物流の起点であり、また、その適切な管理は企業経営の基本であるといえます。
正しい在庫をリアルタイムに把握し、また、ERPとの統合により、市場や需給の動向など、常に変化する外部環境の動きと連携して在庫を管理することが、企業の経営資源の効率的な運用には不可欠といえます。
DXの一環としての、サプライチェーンと在庫管理の適正化
SAP ERPは、インメモリデータベースを採用したSAP S/4HANAへと進化を遂げました。
SAP S/4HANAは、在庫管理を含めた、リアルタイム化を大きく向上させたERPパッケージです。さらにSAP IBPとの連動により、サプライチェーン全体を通して在庫の適正化が進むようになりました。
サプライチェーンは企業が付加価値を生み出すための要石であり、サプライチェーンの改革は企業のDXにおいても大きな役割を果たします。
在庫管理の適正化でお悩みであれば、SAP S/4HANAが持つ在庫管理機能や、SAP IBPのサプライチェーン管理機能の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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多くの企業が、長年にわたってサプライチェーンと在庫管理の最適化を図ってきたものの、コロナ禍により大きな打撃を受けました。今後は、在庫管理データを一元的に管理し、人の判断を仰ぐことなくAIによって自動的にサプライチェーンを最適化するソリューションの活用で解決に導くことが必要不可欠です。インテリジェンスを持ったサプライチェーンの最適化をNTTデータ グローバルソリューションズが提案します。 ダウンロード
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