ERP導入時における比較とは?
自社のニーズに合った導入ポイントを解説
SAP社をはじめとする複数のERPベンダーが、さまざまなERPパッケージを提供しています。
今回のコラムでは、ERPパッケージの導入形態の違い、大手ERPベンダーの特徴を紹介し、自社のニーズに合った導入ポイントについて解説します。
INDEX
ERPとその導入形態
Enterprise Resource Planningは、日本語では「企業資源計画」と訳されています。
一般的には、「企業活動におけるあらゆる情報を連携・集約した統合基幹業務システム」を意味しますが、企業資源であるヒト・モノ・カネ・情報を一元管理し、有効活用するための考え方を指してERPと呼ぶ場合もあります。
ERPの導入形態
ERPには、「オンプレミス型」、「クラウド型」、そしてオンプレミスとクラウドの「ハイブリッド型」という3つの主要な導入モデルがあります。クラウド型のサービスやシステムが登場し、普及したのは比較的最近であり、今でも多くの企業が、オンプレミス型を使用しています。
オンプレミス型のメリットは、「カスタマイズのしやすさ」です。自社環境にシステムを構築するため、既存のシステムとの連携が容易にはかれることが、オンプレミス型を選ぶ理由として挙げられます。一方で、初期費用や導入コストが高くなるというデメリットがあります。
クラウド型は、自社でサーバーを保持する必要がなく、初期費用とランニングコストを抑えることができるのがメリットです。
クラウドサービス黎明期においては、自社のデータをクラウド上にアップロードするため、セキュリティリスクが指摘されることがありました。
現在では、大手ERPベンダーはセキュリティ対策に多額の投資をしており、クラウド上にERPパッケージを導入した方が、むしろセキュリティ強化につながるという指摘があります。
また、一部のアプリケーションをオンプレミス型で実行し、その他をクラウド型で実行する「ハイブリッド型」もあります。
参考記事
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ERPパッケージを提供しているSAP社、Oracle社、Microsoft社の比較
世界的にみると、ERPベンダーは、SAP社、Oracle社、Microsoft社の3社が市場でトップ争いをしています。それぞれの企業別に特徴や傾向を見ていきます。
長年トップシェアを持つERPベンダーSAP社
主力製品であるSAP ERPは、長年機能追加やアップグレードされ、現在のシステムを構築しました。今では、インメモリプラットフォームであるSAP HANAを基盤としたSAP S/4HANAを提供しています。
導入実績として、製造業では、トヨタ自動車株式会社がSAP社の次世代ERP「SAP S/4HANA」とカラム型インメモリーデータベースプラットフォーム「SAP HANA」の採用を決定しました。
その他、小売や流通での導入実績も多く、健康食品や医薬品などのECサイトを運営するケンコーコム株式会社では、ECビジネスの成長を支えるシステム基盤の強化を目的に、アマゾンウェブサービス(以下 AWS)のクラウド環境上にSAP ERPを導入しています。AWSを利用することにより、初期コストと運用コストの合計は、社内での運用と比較して約65%削減し、またデータのリアルタイム化により、業務効率も大幅に向上しました。
「Oracle E-Business Suite」をはじめとする、ERPパッケージの導入実績を持つOracle社
日本国内のパ―トナー企業が、主力製品「Oracle E-Business Suite」を中心にERPパッケージを提供しています。
同社の「Oracle Enterprise Resource Planning(ERP) Cloud」は、ファクトリーオートメーション(FA)分野を中心とする制御機器の総合メーカーであるIDEC社が2017年に採用しました。
また、小売・流通業では市場環境変化への迅速かつ柔軟な対応と、経営情報の可視化・分析による戦略的な意思決定を支援する仕組みとして「Oracle Cloud」の採用が加速しています。すでに、株式会社 タイヨー(九州地方を中心とする流通小売業)において、経営基盤として「Oracle ERP Cloud」が採用されています。
「Dynamics 365」をさまざまな企業に導入するMicrosoft社
2016年より、Microsoft社はDynamics 365の提供を開始しました。国内のパートナー企業が同製品を提供しています。
Dynamics 365は統合されたシステム環境としてはもちろん、特定のアプリケーションを個別に導入することも可能です。このため環境やニーズに合わせて、独自のERPパッケージ環境を構築することができます。
HP社やシーメンス社等の外資系製造業をはじめ、世界的に展開する小売業での導入実績も有しています。
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- SAPとは SAPは、「経営・業務の効率化」や「経営の意思決定の迅速化」を実現することを目的に、多くの企業で導入されているITソリューションです。このITソリューションにより、企業の経営資源である「人・モノ・カネ」の情報を一元で管理ができ、そして経営の可視化を実現できます。本コラムでは、SAPについて詳しく解説をしていきます。
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ERPの有効活用はDXやデジタル化など社会的なニーズとも合致する
現代は、あらゆる業界でDXの推進が活発になっています。デジタル技術は社会に大きなメリットを提供できるため、活用する企業が増えています。
たとえば、顧客とのコミュニケーションや内部の業務プロセスを改善していくことが可能です。外部システムから顧客に関するデータを収集し自社ビジネスに付加価値を生み出していくことや社内業務を効率化していくことができます。
また、逆に内部で管理するデータを外部システムに連携し、顧客に新しいユーザーエクスペリエンスを提供していくことも可能です。
市場のニーズをリアルタイムでキャッチして自社製品やサービスを改善する、顧客ごとに個別の趣味嗜好に合わせた情報だけを配信する、などといった形でDX技術が活用されています。
企業におけるDX活用は、日本政府も強く推奨しています。経済産業省は公式サイトで「デジタルガバナンス・コード」と呼ばれる指針を公開しています。主に経営者向けの内容となっており、ITシステムとビジネスを一体化させ、新しい価値を生み出していく上でのあるべき方向性についてまとめられています。政府によるデジタルガバナンス・コード策定の背景には、以下の要因があります。
今後も、デジタル化への投資はさらに活発になっていくと予想されます。そして、これからのデジタル化社会ではERPを適切に活用していくことが重要になります。
ERPは企業がビジネスを推進していく上で必要となる社内外の情報を管理するためのシステムです。デジタル戦略に成功している企業の多くは、ERPと周辺システムとの連携を図り、データをうまく活用しながら新しい仕組みを作り出しています。これをエコシステムと呼びます。
今後データの有効活用が重要となるため、企業のあらゆる情報が管理されているERPはDX戦略と相性がよいです。
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ERP導入を実現させるためのポイント
ERP導入の要点を把握することで、プロジェクトを効率的に進めていくことができます。
ポイント1:導入の目的を明確にする
ERPを導入する際、目的の明確化は最も重要なポイントとなります。ERPはビジネスを進めていくうえで、さまざまな効果が期待されるため、企業によって求められる要件は異なります。たとえば、以下のような効果を期待して導入が検討されます。
目的や要件に合わせて、プロジェクト計画も策定していきます。プロジェクト計画では、導入する製品が決まっているかどうかで工程が大きく変わります。
親会社や関連企業との効率的な業務連携が目的である場合は、あらかじめ導入する製品が方針として決まっているケースもあるでしょう。
一方で、導入するERPが決まっていない場合は、導入すべき製品を検討するための工程を計画に入れることになります。
目的に合わせたプロジェクトのスケジュール策定が重要になりますが、プロジェクト期間中は想定外の問題が発生することも多く、その場合も導入の目的が明確であれば適切な対応方針を導きやすくなります。
ポイント2:将来的な要件も考慮する
ERPの導入は、企業活動に多大な影響を与えるとともに、大きなコストやパワーが求められる巨大プロジェクトです。そのため、導入にあたってはリスクを洗い出し、慎重に進めなければなりません。また、ERPの導入は、生産効率の改善や迅速なデータ活用など、企業としての目的を達成するために行われます。
しかし、ERPを導入しただけでは、業務効率化などの成果が出るわけではありません。
導入し、真価を発揮するためには、現場における業務プロセスをERPの形に合わせてシステム運用する姿勢が求められます。また、ERP導入効果の目標をあらかじめ設計しておくことで、費用対効果の判断が可能です。
そして、ERPに集約されたデータをどのように生かしていくかなど、活用方法を具体的にしておくこともポイントです。
さらに、社内の体制や事業内容が変わる可能性を検証するだけではなく、当然、将来的な外部環境の変化による影響も考慮する必要があります。
ERP導入を成功させるためには、将来を見据えたフレキシブルなシステム構築が重要です。
ポイント3:優先順位を設定する
ERPを適切に導入することができれば企業に大きなメリットをもたらしますが、プロジェクトを進めるうえで要件に対する優先順位付けは、特に注意が必要です。
ERPは企業の基幹となるシステムであるため、単なるシステム開発や導入とは異なり、ビジネスモデルや業務プロセス、ユーザー体験などあらゆるものを考慮して検討を行います。
ERPのプロジェクトは経営者や業務担当者、情報システム担当者などさまざまな利害関係者で構成されるため、意見が嚙み合わず調整ができなければ、プロジェクトとしての意思決定が困難になるケースもあります。
また企業が抱える課題を解決するためのソリューションが増えることで、システムに対する機能要望は膨らみがちになります。
プロジェクトの成功率を上げるためには、一度にすべての要件を達成することは現実的とはいえません。業務要件や開発機能に優先順位を付け、少しずつ対応を進めていくことが成功のポイントとなります。
ERP導入コンサルティングとは
ERPには多くの企業からニーズがあるため、国内外のさまざまなベンダーが独自のパッケージ製品をリリースしています。以前はERPといえば大企業が導入するイメージがありましたが、近年はクラウド技術の発達により、スタートアップ企業や中堅・中小企業向けのERPパッケージも数多く開発されています。
またERPに求められるニーズも変化していることから、ERP導入を支援するサービス提供を行うコンサルティングファームも多くなっています。
ERP導入におけるコンサルティングサービス
コンサルタントが支援しているサービス範囲は幅広く、大手コンサルティングファームであれば経営戦略から業務改善、システム開発など、ニーズに応える幅広いサービスを提供しています。加えて、特定の業界や業務、システム製品に特化したコンサルティングサービスを提供している企業も存在します。
ERP導入時に提供されている、一般的なサービスは以下の通りです。
コンサルタントからの支援を受ける際は、依頼したい内容をいかに明確に伝えられるかがカギとなります。
業務とシステムの要件整理を依頼したい場合であれば、最初に何を達成したいのか、どの業務領域の要件整理を頼みたいのか、どのERPパッケージで導入を進めたいのか、など要望を細かく伝えることが重要です。
コンサルタントはクライアント企業のビジネス要件や現状の業務プロセスを整理したうえで、より良い業務プロセスの提案や業務改善につながる手段を提案してくれます。プロジェクトを効率的に進めるためには、最初に要望を正確に伝え、担当のコンサルタントから期待通りの支援を受けることが重要です。
ERPコンサルティングサービスを受けるときの留意点
支援を受けるコンサルティングファームは必ずしも大手がいいというわけではなく、自社のビジネスに適したサービスを提供している企業を選定することが重要です。
具体的には、工程ごとに依頼するコンサルティングファームを分けることも検討し、効率的にERP導入を進められるよう工夫します。サービスを受ける前には、最初にERP導入を通じて具体的に何を達成したいのか社内で明確にしたうえで、どのような支援を依頼すべきかを確認します。
コンサルタントを採用する時はERP導入の目的や要件に合わせて、自社の業界に精通しているか、同じ規模の企業への支援経験があるか、導入予定のERPパッケージに精通しているか、などを基準に判断を行います。プロジェクトが失敗してしまう要因の1つとして人材のミスマッチは多く、ERP導入でも同じです。特にERPプロジェクトでは、経営課題の解決、業務プロセス改善、システム開発など対象となるスコープが幅広く、1つの領域で遅延が発生すると他の進捗にも影響が出てしまいます。そのため、候補となるコンサルタントの経歴やスキルセットがプロジェクトの目的を達成する上で有効であるかどうか見極める必要があります。
またERPの導入中は、適切にプロジェクトが推進できているか把握する必要があります。対象の業務や選定したERPパッケージへの理解が浅いコンサルタントを採用してしまった場合、プロジェクトを全て任せてしまっていると、コストと時間がかかるだけで結果としてマイナスの効果を生むリスクがあります。
社内でもプロジェクトの進捗状況や要望に沿ったERP導入ができているかは確認しておく必要があります。
ERP導入の流れ
ERP導入は長期のプロジェクトとなるため、複数のステップに分けて行われます。それぞれの工程で関わる社内関係者は異なるため、支援を依頼するコンサルティングファームや開発委託ベンダーも工程ごとに分ける場合もあるでしょう。
そのため企業の要件やリソース状況に合わせて、適切な工程の順番や数を検討することが重要です。
目的ごとにフェーズを分けて推進していくことで、作業を効率化させプロジェクトの成功確率を上げることができます。そのため、プロジェクトによって導入ステップは全く異なるものが定義されますが、ここで説明するものが最も一般的な導入の流れになります。
ステップ1:目的の決定
ERPの導入目的を明確にする工程です。
目的にあいまいさがあるとプロジェクトを効率的に進めることができなくなるため、プロジェクト推進において最も重要な工程といえます。ここでは、今後のビジネス上の目標や解決すべき課題を明確に定めます。またこの時点でプロジェクト計画の概要を作成しておくと、後続の工程をスムーズに進められます。
企業のITグランドデザインを策定しプロジェクト後のIT投資の方向性を決めておくことも、市場価値を高めていくうえでは有効になります。
ステップ2:製品やベンダーの選定
前工程で決定した目的にもとづいて、ERPパッケージやベンダーの選定を行います。一般的にはコンサルティング会社の支援を受けながら進めていくケースが多いです。
製品が自社の要件に合致するか、必要な機能は実装されているか、設定や機能で自社の細かい要件まで実現できそうか、など重要ポイントを確認します。
ERPパッケージは種類が多く、自社のビジネスに適しているか判断することは容易ではないため、コンサルティング会社に要件整理や製品調査に関する支援を受けながら進めていくことが推奨されます。
ステップ3:要件定義
ERPで達成すべき要件とその手段を明確にします。
ここではERPに実装されている仕組みや機能をどのように利用していくのか、特有の業務要件に対して追加の機能開発を行うのかそれとも業務側が手動で対応するのか、などを決定します。
要件定義では、業務側の担当者をうまく巻き込んでいくこともポイントです。既存の業務要件も考慮に入れて要件定義を進められるだけでなく、業務担当者が新システムを受け入れやすくなる効果も期待できます。
ステップ4:実装
要件定義の内容に沿ってERPの開発を進めます。
選定したERPパッケージに備わっている機能や仕組みに関しては自社の要件に合わせて設定を行います。そのうえで企業特有の要件がある場合は、アドオン開発で独自の機能を実装します。
この工程では、システムの設定や追加機能開発がメインですが、それ以外にも機能のテスト、データ移行用のスクリプト開発、ユーザートレーニング用の説明書の準備なども対応します。
ステップ5:トレーニング
ERPのユーザーとなる業務担当者に操作方法などを覚えてもらう工程です。
用意した説明資料を読み込んでもらうだけでなく、実際にトレーニング用のシステム環境を用意し実際に操作してもらうと、より機能を理解してもらいやすくなります。
また必要に応じて情報漏洩防止のためのセキュリティ教育の実施や、ERPで不具合が発生した場合のヘルプデスクへの問い合わせ方法の共有なども行います。
ステップ6:導入
実装したERPを本番環境にリリースします。
担当者は事前に用意していた導入手順書を確認しながら初期設定や、移行用のスクリプトを使用して旧システムから新システムへのデータ移行を行います。
リリースを行う際は「コンティンジェンシープラン(緊急時の対応方法)」をあらかじめ用意しておくことも重要です。リリース作業は想定外の問題が発生することが多く、目標の時間までにリリースが完了できないケースもあります。
業務を止めないためには旧システムも稼働できる状態にしておくなど、万が一の場合の対応方針を準備しておきます。移行完了後には、本番環境の動作確認も実施します。
ステップ7:運用保守
運用保守は、本番環境稼働後に行う工程になります。稼働中に発生した不具合や、先送りにした要件の機能開発を行います。
具体的には、国内外含む他拠点への横展開や、自社内での新規事業立ち上げによる拡張などが考えられます。また法改正があった場合は、状況に合わせた機能のアップデートなどの対応を行います。
まとめ
ERPは、導入さえすれば期待している効果が得られるものではないため、自社の要件にあったプロジェクト推進が求められます。
ERPを導入する際は、どのような効果を求めているか、どのパッケージ製品・機能を導入すべきか、導入を成功させるためにはどうすべきか、など事前に十分に検討することが重要です。
計画段階で入念な準備を行うことやコンサルティングファームからの支援をうまく活用することが、ERP導入のプロジェクトにおいて重要なポイントとなります。
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