SAP社の戦略とERPソリューションの位置づけを整理して解説します
SAP社はこれまでERP市場において常にリーダーとしての立場を確立してきました。
SAP社が現在提供するERPソリューションには、2015年に「次世代ERP」としてリリースされた「SAP S/4HANA」や、中堅・中小企業向けに提供されているSaaS型のクラウド型ERP「SAP Business ByDesign」などがあります。
また、ERPソリューションと連携・補完し、幅広い業務領域に対応する周辺ソリューションのラインアップも多く打ち出されています。
本記事では、SAP社のソリューションや、ERPと周辺ソリューションを組み合わせた事業戦略について解説します。
ぜひご一読ください。
INDEX
ERP市場におけるSAPとは
ERP市場には、SAP社以外にも、Oracle社やMicrosoft社などがERPシステムを展開していますが、数あるERP製品のなかでも、特に広く採用されているのがSAPです。
SAP社とは
SAP社は、ビジネスソリューションの標準ソフトウェアを初めて開発した企業です。
大企業、中堅・中小企業、小規模事業者のそれぞれに向けたソフトウェアソリューションを開発し、提供しています。
SAP社は、ERP市場におけるリーディングカンパニーであり、世界中の企業がSAP製品を利用しています。
世界中の多様な企業と長年付き合ってきた、豊富な経験と実績が強みです。また安全性も日々強化されており、高い信頼につながっています。
ERPソフトウェアとは
ERPは「Enterprise Resource Planning(エンタープライズ・リソース・プランニング)」の略で、日本語では「企業資源計画」を意味します。
ERPソフトウェアは、「販売」「生産」「在庫」「会計」など、全社(Enterprise)の業務に関する情報を統合化して、「ヒト・モノ・カネ・情報」という経営資源(Resource)を最適化する、または最適化するプランを立てる(Planning)ための仕組みを持つソフトウェアです。
調達・購買、生産、在庫管理、営業、マーケティング、財務、人事 (HR) など、基幹業務領域全体をカバーするプログラムが用意されています。
SAP ERPのメリットとは
SAP ERPのメリットは「受注・販売管理」「在庫管理」「生産管理」「財務管理」といった基幹業務システムから、「人事給与」「経費精算」「固定資産」「プロジェクト管理」「管理会計」「顧客管理」「予算管理」まで、幅広い業務領域をカバーしていることです。
いずれもカスタマイズ機能が豊富であり、業務に合わせて柔軟にシステムを作り込めます。
他社のERPパッケージ製品は、各業務単体の業務効率化に重きを置くツールが多いですが、SAP ERPは業務プロセス全体の実現や整合性の確保を重視しています。また、拡張性に優れている点も特長です。
業務内容に変更があっても、業務プロセス全体で矛盾や不整合が発生しないように設計されています。
参考記事
- SAPとは SAPは、「経営・業務の効率化」や「経営の意思決定の迅速化」を実現することを目的に、多くの企業で導入されているITソリューションです。このITソリューションにより、企業の経営資源である「人・モノ・金」の情報を一元で管理ができ、そして経営の可視化を実現できます。本コラムでは、SAPについて詳しく解説をしていきます。
- ERPとは?基幹システムとの違いや導入形態・メリットと導入の流れを解説 ERPパッケージとは、企業の基幹業務の統合化を図るERPを実現するソフトウェアです。ERPを導入することで、業務の効率化やコスト削減といったメリットを得られます。もちろんデメリットもあります。本コラムでは、ERPパッケージについてまとめ、導入を実現するためのポイントを分かりやすく解説します。
拡充する周辺ソリューション
SAP社は近年、ERP以外のソリューションも拡充を進めており、ニーズに合わせて提供しています。
例えば、SAP社が提供する次世代クラウド型CRMソリューションSAP Customer Experience(旧 SAP C/4 HANA)があります。
SAP Customer Experienceとは
SAP Customer Experienceは、クラウド型CRMソリューションです。クライアントの要望に合わせて、顧客管理、販売管理、分析に活用できるアプリケーションが用意されています。
企業のバックエンド業務を支援するSAP S/4HANAとの連携によって、バックエンドとフロントオフィスが結びつくことが特徴です。
SAP Customer Experienceは、次の5つのクラウド製品で構成されています。
SAP Customer Data Cloudとは
顧客データをリアルタイムで一元管理するアプリケーションです。個人情報の適切な管理を通じて、「合意をベースとした顧客との信頼のある関係」を実現します。
例えば、政治とスポーツのニュースは読みたいが旅行情報は不要であるなど、好みに関する情報や合意を、単に取得するだけではなく、アクティブにモニタリングし、監査できます。
近年、ケンブリッジ・アナリティカ社によるFacebookユーザーデータの不正利用などを受け、企業に対して個人情報を提供することに不信感を持つユーザーが増えています。
「SAP Customer Data Cloud」は、そんな中で顧客の信頼を獲得するために、また2018年からEUで施行されている一般データ保護規則(General Data Protection Regulation : GDPR)などの法令遵守に不可欠な機能を提供します。
SAP Sales Cloudとは
販売や営業向けの機能に加え、AIを使用して、適切な営業を行うために必要な情報を提供します。
どの製品が誰にもっとも売れているのか、どの価格で売れているのかを把握できます。
SAP Commerce Cloudとは
電子商取引やオンラインショップの構築・強化を図るために、いかなる環境からでも顧客がアクセスしやすい環境を提供します。
APIを利用した他システムとのデータの連携や、機械学習の技術を活用して、顧客ごとのニーズや思考を把握し、顧客の購買決定に関連するコンテンツを提示するなど、個人に合わせたサービスの提供が可能です。
金融、旅行、通信、メディアなど、小売業以外にも業界固有の機能を搭載しています。
SAP Service Cloudとは
コールセンターやヘルプデスクの担当者が顧客の全体像を把握し、問題を迅速に解決できるように支援します。
過去の情報を参考に、顧客が抱える問題を迅速に解決できるようにサポートするほか、企業の部署間に共通する課題の管理が可能です。また、機械学習により、日々の業務を自動化する機能も備わっています。
SAP Marketing Cloudとは
顧客に対して、効率的に自社製品・サービスの宣伝や提供を行います。ターゲットとなる顧客を正確に定義し、最適な製品やオファー、キャンペーンを決定することで、多様なチャネルでの契約獲得につながります。
予算、費用、製品の入手可能性についてリアルタイムで測定し、マーケティングの改善を継続的に行うことが可能です。
SAP社が提供するその他の周辺ソリューションとは
SAP社が提供するその他の周辺ソリューションとは
SAP Aribaとは
SAP Aribaは、企業の購買業務を一貫してサポートする調達管理サービスです。
見積もりの依頼、契約、発注、請求、支払いなどの一連の業務がWebシステム上で完結します。また、購買実績などの履歴を集計し、可視化することにより、予算の消化状況を確認可能です。
SAP Aribaが構築する連携ネットワークであるAriba Networkには、190カ国420万以上の企業が参加しています。Ariba Network上では取引先との連絡や、電子署名などが可能です。
SAP Concurとは
SAP Concurは、出張・経費管理に特化した経費生産管理システムです。
従来、企業では従業員の使用した経費を領収書ベースで把握し、それをExcelなどの帳簿に手作業で入力する必要がありました。
SAP Concurを利用することで、経費の申請、決済、支払処理までの工程を自動化できるため、経理部門や社員の手間が省けます。また、経費を一元化することで、不正防止にもつながります。加えて、最新の電子帳簿保存法にも対応しています。
SAP SuccessFactorsとは
SAP SuccessFactorsは、人事業務全般を網羅する人事システムです。
従来の人事システムは、従業員の所属、役職、給与計算を支援するシステムが一般的でした。しかし、人事評価には、個人の能力や経験、実績などのデータも不可欠です。
SAP SuccessFactorsでは、人材に関わるあらゆる情報を一元的に管理し、可視化します。
個人の強みやスキルも一元管理されるため、新事業の立ち上げや組織の変更などを行う際、適材適所の提案が可能です。また、従業員が自分のパフォーマンスを適宜チェックして足りないスキルを確認し、将来に向けたキャリア形成を考える仕組みとしても利用できます。
SAP Fieldglassとは
SAP Fieldglassは、企業と人財をつなぐ「人財シェアリング」を実現するプラットフォームです。
企業においては、社外の人材活用が欠かせません。しかし、人材紹介会社からの雇用だけでは、スキルや人数など、希望に合った人材の確保は難しいのが現状です。
SAP Fieldglassを利用すれば、従来の協力会社との連携だけではなく、フリーランスや早期退職者などマルチチャネルから人材を探せます。また、現場からのフィードバックを記録してデータとして蓄積し、人材情報を部門間で共有することも可能です。
SAP社が提唱する「インテリジェントエンタープライズ」とは
SAP社では「インテリジェントエンタープライズ」というコンセプトのもとに多様なサービスを提供しています。
インテリジェントエンタープライズは、データを洞察に迅速に変換できるようにするための戦略です。人工知能(AI)、機械学習(ML)、IoT、分析などの新しいテクノロジーを活用して、従業員がより価値の高い成果に集中できるようにすることが目的です。
SAP Business Technology Platformとは
SAP Business Technology Platform(以下 SAP BTP)は、SAP S/4HANAをコアに、SAP社が提唱するコンセプト「インテリジェントエンタープライズ」を実現するためのアプリケーション開発プラットフォーム(PaaS)です。
企業には様々な業務システム、管理システムが導入されていますが、デジタルトランスフォーメーション(以下 DX)を推進するためには、全社横断的なシステム連携やデータ活用が欠かせません。
SAP BTPを活用することで、様々なSaaS製品との連携や拡張が可能となり、変化するビジネス環境にスピーディーに対応できるようになります。
関連ソリューション
- SAP Business Technology Platformとは SAP Business Technology Platformとは、SAP S/4HANAをコアに、SAP社が提供するコンセプト「インテリジェントエンタープライズ」を実現するためのプラットフォームです。「データ活用基盤」、「統合」、「拡張」、「基本」とゆった、ビジネス変革に必要な技術とサポートがまとめられています。
パートナーとの協働で作る「デジタルエコシステム」とは
デジタルエコシステムとは
デジタルエコシステムとは、製品やサービスの適用性、拡張性、持続性のあるソリューションを共有しながら、収益を上げる構造です。
本来エコシステムは、生態系の関係性を表す言葉です。最近では、デジタル分野でも、同じ分野の企業や製品が連携し、それぞれの技術やノウハウを共有しながら収益をあげる構造を意味するデジタルエコシステムの言葉が使われるようになりました。
近年、顧客ニーズの多様化や、製品ライフサイクルの短期化が進むなかで、企業が独自で新製品の開発を行い続けることは困難です。
このような背景から、企業の枠組みを超えて複数企業で技術やアイデアを出し合い、イノベーションを生み出していく仕組みとして、デジタルエコシステムが注目されています。
SAP社が提供するデジタルエコシステムとは
SAP社が提供する多様なアプリケーションやサービスはサードパーティやパートナーにオープンです。
例えば、パートナー企業がSAP製品を自社の製品に組み込み、独自ソリューションとして提供できる「SAP ISV/OEMプログラム」を提供しています。
ISVとは、メーカーなどのプラットフォーム事業者以外の、またそれらの傘下にない独立系企業のことです。SAP社にとってISVは、自社製品に対応したソフトウェアを開発・販売する自社以外の企業にあたります。
「SAP ISV/OEMプログラム」では、以下のようなことが可能です。
その他にも、以下のようなサポート体制があり、利用しやすいプログラムとなっています。
こうした取り組みから、パートナーと協力しながら周辺ソリューションを育てていこうというSAP社の戦略がうかがえます。
参考記事
- エコシステムとは?ビジネスにおけるエコシステムの意味と導入におけるメリットを解説 ビジネスにおけるエコシステムとは、企業同士がお互いに協力し、それぞれの業務やサービスを補う構造を指します。本コラムでは、エコシステムの意味から導入のメリットをご紹介します。
SAP社が推進する「日本型変革フレームワークの開発とは
SAP社では、これまで多くの企業を支援した経験から、保守的な経営層の意識改革、スモールスタートを含む新規ビジネスの実証、事業化というステップで必要となる人材・プロセス・環境などを「変革のパッケージ」として提供しています。
SAP社の目標は、お客様の課題を解決し、その先にある社会課題の解決、変革につなげていくことです。
例えば、SAP社は小松製作所(コマツ)に対して、建設機械の稼働管理による保守メンテナスの提供をすすめてきました。しかし、コマツ社が本当に実現したかったことは、社会課題の解決です。そこでSAP社は、NTTドコモ、オプティムと協働で、土木・建設業界全体のあらゆるデータを蓄積して活用できる、オープンなプラットフォーム「LANDLOG」を作りました。
局所的な課題解決だけではなく、業界全体を可視化したプラットフォームを作り、それをあらゆる業界の人にオープンに提供することで、業界の課題や社会課題の解決につなげています。
SAP Leonardo Experience Center Tokyoとは
SAP社は2019年に、デジタル変革やイノベーションを推進するための施設「SAP Leonardo Experience Center Tokyo」を開設しました。
SAP Leonardo Experience Center Tokyoには、デザインシンキングのためのスペースと、デジタル変革後の姿のバーチャル体験スペース(Immersive Experienceルーム)が備えられ、デジタル変革推進に必要となるすべてのデジタル機器や技術が、1つの施設に集約されています。
ディスカッションやアイデアを共有することはもちろん、生まれたアイデアを具体的にイメージできるスペースとしても活用できます。
ERPと周辺ソリューションを組み合わせたSAP社の事業戦略とは
SAPジャパンは、2019年に「インテリジェントエンタープライズの普及」、「日本型変革フレームワークの開発」、「デジタルエコシステム」の3つの重点テーマを事業戦略として発表しました。
SAP社のソリューションの展開のために様々なパートナーと連携することは、スタートアップ支援の「SAP.iO」や産学連携の「Business Innovators Network」などの施策と並び、SAPソリューションによる「デジタルエコシステム」形成に向けた一手と言えます。
IDC社が2022年に実施した「IDC MarketScape:Worldwide SaaS and Cloud-Enabled Operational ERP Applications 2022 Vendor Assessment(世界の SaaS およびクラウド対応業務用 ERPアプリケーションベンダー評価)」において、SAP社はリーダーに認定され、戦略に関してナンバーワンのベンダーであると評価されています。
RISE with SAPを軸とした事業戦略の強化とは
2021年1月には「RISE with SAP」の提供が開始されました。
RISE with SAPでは、「SAP S/4HANA Cloud」をコアとして、従来のERPや周辺ソリューションを組み合わせた1つのサービスを提供します。単にクラウド型の製品を提供するだけではなく、協力して顧客の変革を支援して高い価値を提供することが、クラウドカンパニーへの深化につながるとSAP社は考えています。
SAPジャパンは、2022年2月16日に開催したビジネス戦略に関する説明会で、「RISE with SAP」を軸として事業戦略を強化することを宣言しました。今後さらに「RISE with SAP」で実現できるシステムや機能は充実していくと予想されます。
参考記事
- RISE with SAPとは? RISE with SAPは、SAP S/4HANAを中核にクラウドへの移行と、SAP社が提唱する「Intelligent Enterprise」を実現するための基盤を整えるための「道すじ」ともいえるスイート製品です。ビジネスの変革に必要なソフトウェアがまとめられお客様のDXを支援を分かりやすくご紹介します。
まとめ
SAP社のソリューションや、ERPと周辺ソリューションを組み合わせた事業戦略について解説しました。
SAP社は「インテリジェントエンタープライズの普及」、「日本型変革フレームワークの開発」、「デジタルエコシステム」の3つを重点テーマとして掲げ、ERPソリューションと連携・補完し、多様な業務領域に対応する周辺ソリューションを数多く打ち出しています。
また、SAPジャパンは、2022年に開催したビジネス戦略に関する説明会で「RISE with SAP」を軸として事業戦略を強化すると宣言しました。
今後はさらに、他社システムとの柔軟な連携やクラウド利用などによって、あらゆる業務の最適化に貢献していくことを目指しています。
NTTデータ グローバルソリューションズ(NTTデータGSL)では、豊富な実績から蓄積された知見をもとに、SAPのソリューションや周辺のソリューションをフルに活用してお客様のDXを推進し、サポートします。
関連サービス
- コンサルティング/PoC SAPソリューションやそれを含むエコシステムをどう使っていくのか、そしてその使い方を提供するのがコンサルティングです。システムのライフサイクル全般に渡りサービスを提供し、PoCを行うことで、機能の妥当性や実現可能性の評価も行います。
関連資料
-
DXを実現するSAP S/4HANA🄬新規導入
デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するための基盤としてSAP S/4HANA🄬が注目を集めている。しかし、SAPS/4HANA🄬の新規導入にはいくつかの押さえるべきポイントがある。NTTデータ グローバルソリューションズが、SAPS/4HANA🄬を活用した基幹システムの最適な導入に向けてどのように支援し、DX推進を実現するをご提案します。 ダウンロード
-
2層ERPで実現する事業サイズに見合った経営基盤構築
SAP Business ByDesignは、事業の目的やサイズを考慮したSaaS型のERPです。NTTデータ グローバルソリューションズは、SAP Business ByDesignに関する豊富な知見とグローバルでの導入実績を有しており、SaaS型のメリットを企業が最大限引き出せるよう支援を行います。 ダウンロード
-
CtoBのアプローチで顧客接点を刷新
新型コロナウイルスをきっかけに、従来の企業活動であった人との接触が制限されました。ニューノーマル時代では、デジタルを活かしたカスタマーエクスペリエンス(CX)の向上が求められます。 しかし、多くの企業では「顧客の情報管理ができていない」、「必要な情報が必要な顧客に届かない」といった課題を抱えております。 そこで、ニューノーマル時代を見据えたカスタマーエクスペリエンス(CX)向上とその解決策としての顧客接点からビジネスにおけるDXを推進するをご提案します。 ダウンロード