ERPシステムを用いた財務会計の実現とは?
ビジネスのグローバル化や事業の多様化にともない、企業の会計処理はますます複雑化、そして煩雑になっています。
今回は、現代の企業経営に求められる財務会計と企業が抱える課題、そしてその課題解決に有効なソリューションであるERPソリューションについてご紹介します。
財務会計と管理会計
企業会計は、「財務会計」と「管理会計」に大別されます。どちらも、企業経営にとって欠かせないものですが、利用目的には明確な違いがあります。
財務会計は、株主や金融機関など、社外の利害関係者に、業績を把握してもらうために作成するもので、「情報提供機能」と「利害調整機能」の2つの機能があります。
前者は文字通り株主をはじめとする利害関係者に対して、経営に関する情報を提供するものです。
また、株主から経営を任され、会社の利益を最大化する義務が課されている経営陣が、自分の利益を最優先してしまうことがないよう、財務会計に基づく報告が必要とされています。これを財務会計の利害調整機能と呼んでいます。財務会計のために作成される書類は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などがあります。またこうようなデータは、確定申告のため税務署に提出する必要があり、国内制度に則った処理が求められています。
一方、管理会計は、外部ではなく社内向けの会計です。主に経営陣が経営の現状を把握し、経営判断を行うための内部資料という位置づけです。したがって形式には特に基準や制限はなく、企業ごとに分析やレポートの軸を検討して作成します。
グローバル化と財務会計の課題
企業のグローバル化とともに、財務会計も複雑化しています。
海外に拠点を持つ企業にとっては、多言語・多通貨への対応のほか、国や地域で異なる要件への対応や勘定科目の統一、会計処理の作業が煩雑になることは避けられません。各拠点でばらばらの会計基準を適用するのではなく、約120の国と地域で採用されている国際会計基準(International Financial Reporting Standards 以下 IFRS)を導入すれば、海外子会社を含む全ての拠点間で、業績の正確な把握と比較が可能になります。
日本の会計基準に不慣れな外国の投資家に対しても、企業の財務状況を説明しやすいというメリットがあります。買収した企業の価値が減らない限り、「のれん代」が費用として計上される日本の会計基準とは異なり、IFRSのルールは積極的にM&Aを仕掛ける企業に適しています。
IFRSが義務化されていない日本においては、2021年1月時点で、東証に上場する217社がIFRSを適用済で、加えて10社が今後適用予定となっています。
しかし、IFRSを適用するのは決して容易なことではありません。
IFRSは原則主義を採用しており、解釈や実務の指針が細かく定められておりません。そのため、説明責任を果たすために大量の注記を付記することが求められています。また、規定自体も頻繁に改訂されるため、その都度対応するためには事務コストが発生します。
こうした課題を解決するのに有効なのが、SAP社が提供する財務管理ソリューション「SAP S/4HANA Finance(旧 SAP Simple Finance)」をはじめとする、ERPシステムの会計ソリューションです。
ERPでグローバル時代の会計に対応
SAP社は、IFRS対応をサポートするためのテンプレート「IFRS Starter Kit」を提供しています。
これを利用することで、データ収集から連結処理、レポーティングまでを迅速に行うことが可能です。また同様に、収益管理ソリューションである「SAP Revenue Accounting and Reporting」は、IFRSを含む複数の会計基準に対応しており、日本会計基準や米国会計基準から、IFRSへの移行を円滑に実現することが可能です。
そして、SAP社の連結会計ソリューションである「SAP Financial Consolidation」には、複数の会計基準の連結を実現するための機能が備わっており、連結の範囲やルール、適用する勘定体型などを任意に組み合わせることができ、複雑化する会計処理を一つのシステム基盤で実現することが可能です。財務会計を含む経営情報をリアルタイムに一元管理する、という観点では、世界各地に展開する全拠点を一つの組織とみなし、一つのERPシステムで管理する形が有効です。
しかし、拠点ごとに事業内容が大きく異なっている点、また独特の商習慣に対応する必要があるといった場合は、単一のERPシステムの導入が、特定の拠点にとって大きな負担になってしまう場合があります。
この課題に対しては、本社と海外拠点で別々のERPシステムを導入し、それを連携させる「2層ERP」という手法を採用することで、柔軟性を確保しつつ、経営情報の一元管理を実現することができます。例えば、本社のコアERPとして「SAP S/4HANA」、2層目には、「SAP Business ByDesign」を導入することで、低コストかつ短期間に全体最適を実現することができ、海外拠点の事業が成長した場合は、1層目のERPシステムに移行することも容易です。
このように、IFRS対応など豊富な機能を備えたERPシステムの会計ソリューションを活用することで、複雑化する財務会計処理を円滑に実施することができます。また、2層ERPを利用すれば、市況の変化や経営戦略の変更にあわせ、拠点ごとに適切なERPシステムを柔軟に選択することが可能です。
企業経営においてグローバルでの全体最適が求められる今、ERPシステムを会計に活用するメリットはますます高まっているといえるでしょう。
関連サービス
- コンサルティング/PoC 企業のグローバル化が進む中でIT組織プランから運用保守を含めたコスト最適化分析支援まで、SAP アプリケーション導入のためのコンサルティングを提供します。