SaaS型ERPとは?
従来のERPは、オンプレミス型が主流でした。オンプレミス型ERPは、ハードウェアの調達に伴う初期費用に加え、メンテナンスやトラブル対応などを含めた運用リソースが必要になります。
また、自社でアップデートを行わない限り、導入当時のシステムを使い続けることになります。慣れ親しんだシステムを利用し続けられるとゆうメリットがありますが、システムの老朽化、そしてビジネス環境の変化に対応するのが難しくなります。
こうした背景から、初期費用を抑え、かつ迅速に導入可能なクラウド型ERPの利用が拡大しています。

クラウド型ERPの利用が拡大
クラウド型ERPは、大きく二種類に分類されます。一つは、アプリケーション自体をクラウドサービスとして利用するSaaS型です。SaaS型は、インターネット経由で提供される「サービスとしてのソフトウェア」を意味します。システムの構築やアップデートは、ベンダー側が行うため、調達、保守・運用の手間がありません。また、常に最新版を利用できるというメリットがあります。もう一つは、IaaS型やPaaS型を利用してERP稼働に必要な環境を整え、その上にソフトウェアをインストールして利用する方法です。
インフラ部分は、「Amazon Web Services」、「Microsoft Azure」、「Google Cloud Platform」などのクラウドサービスベンダーが運用管理を行います。全てがベンダーから提供されるSaaS型と比べると、ERPシステムの運用はユーザー側で管理するため、機能追加などカスタマイズの自由度が高くなっています。その反面、自社の業務プロセスに合った環境を構築するためには、相応の導入コストや労力、期間が必要です。また、アプリケーション環境やインフラ、セキュリティに関する専門的な知識も求められます。
SAP社のSaaS型ERP
SAP社が提供するSaaS型ERPは、中堅・中小企業やグループ展開向けのSAP Business ByDesignと「SAP S/4HANA Cloud」があります。日本では、前者が2013年から、後者が2016年から提供されています。
SaaS型の「SAP Business ByDesign」は、初期導入コストを抑え、短期間で導入することが可能です。サブスクリプションサービスであるため、毎月の費用が明確で、必要な時に、必要なだけ利用できることが大きなメリットです。
オンプレミス型のERP導入に必要な初期費用や運用保守リソースが負担となる中堅・中小企業にとって、"SAP社のクオリティを、手頃なコストで"実現するためのSaaS型ERPといえます。
また、世界中で利用されている「SAP Business ByDesign」は、あらゆる国・地域への導入実績をもとに、現地の法令や商慣習に対応する仕組みが蓄積されており、グルーバル展開する大企業にとっても導入メリットがあります。例えば、海外拠点に「SAP Business ByDesign」を導入し、本社のERPと二層構造で利用することができます。結果、臨機応変な動きが求められる海外進出に合わせて柔軟な運用を行うことが可能です。「SAP Business ByDesign」は、日本を含む世界117ヵ国で提供され、2018年時点で約3,700社に導入されています。
一方で、「SAP S/4HANA Cloud」も、SAP社がSaaS型で提供するアプリケーションで、月額利用料を支払うことで迅速な導入が可能です。また、パブリッククラウド(マルチテナント型)のみで利用する「SAP Business ByDesign」と異なり、「SAP S/4HANA Cloud」は、プライベートクラウド(シングルテナント型)で利用することも可能です。パブリッククラウド版の「SAP S/4HANA Cloud」では、機能拡張の選択肢が「キーユーザー拡張」と呼ばれるアプリケーション上の拡張と、SAP Cloud Platform で行うSide-by-Side拡張の2種類のみです。プライベートクラウド版では、ユーザーがクラウドインフラ、アプリケーション、プラットフォームへの専用アクセス権を持つため、カスタマイズの自由度がより高くなります。
従来のオンプレミスと同様にアドオン開発を行うこともできるため、独自の業務プロセスを実現するなど、自由度の高いERP運用を行いたいユーザーに適しています。
また、アップデートのタイミングにも違いがあります。パブリッククラウド版は四半期ごとに機能がアップデートされますが、プライベートクラウド版は、オンプレミス版と同じ年1回。また、アップグレードの可否やタイミングは、ユーザー自身で選択可能です。