海外展開に向けたIT戦略とは?
海外で事業を行う日本企業にとって、国や地域をまたいだ財務・税務処理の煩雑さや、言語や文化の壁、本社と現地間の情報共有の不備などが経営の課題となっています。
今回のコラムでは、海外展開に向けた課題を解決するためのERPソリューションの活用や、その導入に向けたIT戦略の方向性について説明します。
日本企業による海外展開の動向
国内市場の成熟化などを背景に、1980年代頃から、日本企業は積極的な海外展開を続けてきました。日本企業の海外現地法人数は、1985年の8,187社から2018年には2万6,233社に増加し、近年は東南アジア諸国連合(ASEAN)地域への進出が拡大傾向にあります。
日本貿易振興機構(ジェトロ)が実施した「2019年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」では、今後3年程度の期間に、新規の投資や既存拠点の拡充など、「海外進出の拡大を図る」と回答した企業は56.7%であり、この数字は過去3年間、ほぼ同水準で推移しています。
一方、コロナ禍で実施された2020年度の「海外進出日系企業実態調査」によれば、日本企業の景況感は、アジア通貨危機やリーマンショックを下回る過去最低の水準に落ち込みました。事業拡大意欲も低下しているものの、海外事業の縮小や第3国への撤退を検討している企業は1割未満でした。
今後のビジネス正常化を見据え、多くの企業がデジタル活用などにより、新たな事業戦略・ビジネスモデルの構築に取り組んでいる様子が明らかになっています。
海外展開における課題
海外での事業展開が一般化したとはいえ、海外拠点の経営には様々な課題があります。
本社やグループ全体の戦略と現地法人の戦略との整合性といったビジネス戦略上の課題から、現地のITシステムの機能や脆弱性、また国境を越えた財務・税務処理から組織のガバナンス、コンプライアンスに至るまで、課題の種類はさまざまです。言語や文化の違い、情報共有システムの不備などが理由で、現地法人のパフォーマンスを正確に、そして迅速に把握できなければ、適切な経営管理はできません。
また、グループ内で管理する経営情報の範囲や指標の定義が異なっていると、調整や分析に余計な手間がかかるだけではなく、適切な経営判断が難しくなります。さらに、現地の税制の複雑さなどが原因で、不適切な会計や税務処理、あるいは役職員の不正を把握することができず、ガバナンスの弱さが大きなビジネスリスクに直結する事例も増えています。
2019年には、上場企業64社が、会計や経理の不祥事を開示していますが、そのうち18社の不正は海外子会社や合弁会社で発生しています。そして、新型コロナウイルスの感染拡大により人の移動が制限される今、海外拠点のガバナンス管理は、より困難になっています。
海外展開の課題を解決するためには
こうした課題を乗り越え、経営資源を最適化した経営を実現するためには、ERPシステムを活用し、国内・海外拠点を包含したグループ全体の経営情報基盤を強化することが有効です。
グループ全体の連結ベースの状況を可視化するためには、為替換算調整と連結調整の機能が必要ですが、例えば、SAP社が提供している連結会計ソリューション「SAP Financial Consolidation」を用いることで、複数の会計基準の連結を行うことができるだけでなく、連結の範囲やルール、また外貨換算レートや適用する勘定体系を任意に組み合わせることが可能です。また、ERPシステムを利用し、海外拠点から報告される情報の粒度や形式を統一することで、海外子会社の収益性や見通しを統一基準で比較し、経営判断に活かすことができます。
こうして海外子会社などの経営情報を集約し、本社から常に確認できる仕組みを整えることが、不正の防止、ガバナンス強化にもつながります。複数の国で事業を行う企業にとっては、国ごとに異なる複雑な間接税への対応や、法廷報告業務が大きな負担ですが、「SAP S/4HANA for advanced compliance reporting」を用いることで国ごとに異なる法定報告業務を世界規模で管理、実行、分析することが可能です。頻繁な法改正にも対応しており、コストだけでなく法令違反のリスクも削減し、生産性の向上を実現します。
日本企業のIT投資状況と海外へのERPシステム展開手法
これまで、改善や効率化により新たな付加価値を生むような「攻めのIT投資」ではなく、事業の維持や継続を目的とした「守りのIT投資」が多かった日本企業ですが、2019年の調査では、今後3年間でIT投資が増加する分野として8年ぶりにERPシステムがセキュリティ関連ソフトウェアと並び一位となりました。新型コロナウイルスが流行する前の調査ではあるものの、2021年には日本企業の海外IT投資が7441億円に達するとの予測もあります。
その背景には、ERPシステムのクラウド化など、改善や効率化により新たな付加価値を生むことを目的としたIT投資が拡大しているからです。
しかし、市況の変化や経営戦略の変更によって、縮小や撤退も含めた柔軟な対応が求められる海外拠点において、本社と同様の大規模なERPシステムを導入するのは、リスクが高いと経営は判断しています。そのような場合には、海外拠点では低コストかつ短期間での導入が可能なクラウド型ERPシステムを導入し、あるいは、本社と海外拠点において、二層でERPシステムを運用するなどの手法が有効です。
ある電機メーカーやハウスメーカーでは、海外子会社にSAP社の「SAP Business ByDesign」と「SAP S/4HANA Cloud」をそれぞれ導入し、本社のコアERPと連携させることで、短期間での基幹システムの全社展開とガバナンス強化を実現しました。
海外で事業を展開する企業にとっては、ERPシステムを活用してリアルタイムでグループ全体の損益管理を行い、競争力の強化と業務の効率化を進めることが急務です。
2027年のSAP ERPの標準サポートの期限切れなどのタイミングを活用し、ガバナンス強化と企業価値の向上を実現しましょう。
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